「わが巨人軍は永久に不滅です。」と言って巨人軍を去った長嶋茂雄さん。


長嶋さんは年を取りますが、巨人軍が年を取るわけにはいきません。


同じように「会社」も、年を取るわけにはいかないのです。



以前、事業承継のことを取り上げたとき、


「事業承継」=「経営者の引退」ではなく、「事業承継」=「会社の継続」です。

と、書きました。


が、


「事業承継」は、「継続」というよりは、「脱皮」でした!



事業承継とは


会社は、何度も脱皮して姿を変えながら、永遠に生き延びるすごい存在!


2021年10月25日、齊藤 伸英さんの

「事業承継の実体験から語る、次世代へのバトンタッチ」

という講演を聴きながら、そんな感動を覚えました。


伸英さんの静かな口調の中に、

「会社」という存在に、いったん身を投じたら、

「リーダーとして自分が会社を引っ張る時代だけじゃなく、その先を見据えた経営をしなければならない」

という強い「覚悟」が伝わってきました。



齊藤 伸英さんは、2021年8月27日に「事業承継式」を行い、60歳で斉藤光学製作所の経営者のバトンを、現社長の齊藤大樹氏に渡しました。

 


経営理念をもとに、淡々と仕事をしてきた伸英さんは、自然に事業承継に行き着いたといいます。


会社が常に高みを目指して新陳代謝をしていれば、脱皮の時期が来るのは必然なんですね。


統計では、「経営者が年を重ねるごとに、業績が下がる」というデータがあるそうです。


会社は、永遠に存続して社会に価値を提供しつづけるのが大前提。


脱皮を繰り返し、業績を上げていくのは、会社を経営している人の義務とも言えます。


そして、今の経営者が変わっても会社が存続していくためには、「経営者に依存しない会社」である必要があります。


「会社の新陳代謝を止めない」という経営者の義務の実践と、「経営者に依存しない会社づくり」の2つが、経営者にとってやらなければならない事業承継となります。


事業承継は、「経営者から次期経営者への単なる引継ぎ作業」ではなくて、「会社の価値を高めるための、10年越しの大事業」だったのです!


事業承継の実践


この一大事業を、どのように伸英さんが行ってきたか?


事業承継には、大きく「親族内承継」、「親族外承継」、「M&A」の3つがあります。


親族内承継


これは、

  • 親族の中で、会社を引き継ぐ人材が育っている。
  • 会社に引き継ぎたい魅力がある。

という2つの条件がそろっているときに可能。


親族外承継


これは、

  • 親族の中には人材が育っていないけど、それ以外に人材が育っている。
  • 会社に引き継ぎたい魅力がある

という条件がそろっているときに可能。


M&A


これは引き継ぐ人が存在しなくて、他の会社と合併したり、会社を売却したりするので、

  • 会社に買い手がつく魅力がある

という条件が必要です。買いたたかれないようにしないといけません。



この「人材」と「会社の魅力」のどちらも欠けてしまうと、「廃業」ということになってしまいます。

 

経営者は、会社を存続させるために、次期経営者の育成と、会社の魅力づくりの2つの仕事をすることになります。


「この会社、素晴らしい!」といくら経営者が思ったところで、決めるのは相手です。


なので、他者から見て価値ある会社に、磨き上げる必要があります。


他者から見て、価値ある会社とは


伸英社長は、ある会社を買った経験があるそうですが、その時に買う、買わないの判断材料にしたのが、「人材」。


会社の資源には、「人」、「モノ」、「カネ」、「情報」がありますが、「人」こそが、先進的な取り組みを行い、設備をメンテナンスし、人間関係を築き、会社に利益をもたらしている一番大切な資源


と考えています。


この視点から、自身の会社の価値を考えたときに取り組むのは、「他者から見た人材の魅力づくり」となるのです。



やることは、まだまだあります。


事業承継の大きな仕事は4つ。


関係者の理解

後継者教育

財産・株式の分配

会社の魅力づくり


これらをクリアして、会社は脱皮成功!


ちょっと待ってください!


会社はいいとして、経営者を退いた本人の、これからの人生を豊かに過ごすための準備も必要です。

 


パラサイトしないための財布とは?


もともと、伸英さんには、人生の哲学として「パラサイトせず」というのがありました。


この哲学に基づくと、


肩書にパラサイトせず

組織にパラサイトせず

社会にパラサイトせず


というのが、事業承継に向き合った時の伸英さんの信条です。


この信条のもと、次の「3つの財布」に考えが及びます。


本業の財布

副業の財布

個人の財布

 


本業の財布


本業の財布は、斉藤光学製作所の財布。


この財布とは、退職金でケリをつけます。


退職金は、前もって退職金積み立てなどで、準備をしておきます。


副業の財布


これは、退職後に暮らすための財布です。


伸英さんは、53歳で副業をはじめ、退職と同時にこの副業を本業に。


Saitech (サイテック)という有限会社を立ち上げ、経済経営セミナーの企画運営、コミュニケーション教育、モチベーション教育で、様々な会社、団体、学校などを訪問しています。


これが、本当に楽しそう。


今までの経験やネットワークを、ソーシャルビジネスに100%生かして、社会貢献をしているのです。


「俺から会社を取ったら何も残らない」となると、会社から離れるのは考えただけでも恐ろしいですが、こんなことができるなら、うらやましい!


セカンドライフ、セミリタイアの設計が大事だと、伸英さんは言います。


個人の財布


副業の財布がなければ、今までの貯金や年金などで暮らしていくことになります。


人生100年時代、副業の財布を持って、まだまだ社会に貢献してもらいたいものです。


事業承継の根っこ


このように、周到に準備をして事業承継という一大事業を成功させた伸英さん、


根っこにあるのは、経営理念。


経営理念に必要なのは、種となる思想です。


思想を作ったものは、哲学です。


経営理念は、伸英さんが持っている哲学を具現化したものだったのです。


会社を離れ、またこの哲学に立ち返り、伸英さんの挑戦する人生は、豊かに幸せに、続いていきます。