前回、インボイス制度について書かせていただきましたが、読んでくださった方から「まだわからない!」というコメントをいただきました。


なので、今回は、「免税事業者」の立場になって、考えてみたいと思います。


免税事業者は、消費税を支払っています


縫製工場は、布や糸など材料を仕入れて、洋服を作り、洋品店に卸しています。



例えば「Aデザイン」と「Bスタイル」という2つの事業所があったとします。




Aデザインは、税務署に消費税を持っていかない免税事業者


Bスタイルは、税務署に持っていく課税事業者です。


2つの業者は洋服を作るために、布やボタンなどの材料を仕入れています。



どちらも1着分で、税込み2,200円。


なので、免税事業者も、課税事業者も、消費税200円を支払っています。


この材料で洋服を作り、1着5,000円(税込み)で洋品店に卸します。


免税事業者のAデザインは、この時洋品店から受け取った消費税を税務署に持っていく必要はありません。


が、


仕入れるときに支払った消費税を、回収する機会も失っています。


もし、


「いい布が安く手に入る機会があり、大量に購入したら、消費税が10万円かかってしまいました。」


という場合や、


「大量生産するために、思い切って大きな機械を導入したら、支払った消費税だけで50万円になりました。」


という場合も、消費税は払いっぱなしです。



一方、Bスタイルは課税事業者。


税務署に行ったところ、仕入れで支払った消費税のほうが、売り上げで得られた消費税より多かったことがわかり、今回は税金が戻ってきました。



このように、


免税事業者は、売り上げた時の消費税を納付する必要はありませんが、仕入れた時の消費税を回収できないので、場合によっては損をする場合もあるのです。


免税事業者は、売値を安く設定できるので、価格競争力がある?


「うちは、消費税を支払わない分、洋服の価格を抑えることができて、価格競争力があるんです。」


ということもあるかもしれません。


Aデザインは、「免税事業者なので、消費税を支払わなくてもいいと」いうメリットを生かし、ドレスは、1着5,000円で卸します。


一方、「Bスタイル」は、課税事業者。

消費税を払うことを前提に洋服の価格を決めているので、1着5,500円です。



洋品店が、どっちをとるか?


インボイス制度が導入された時の場合を考えます。


洋品店は、Aデザインのドレスは安く仕入れることができたので、売価を7,500円にしました。


一方、Bスタイルのドレスは8,250円で売ることにしました。



この時の、1着売れた時の洋品店の利益を見てみると下の表のようになります。


Bスタイルは、課税事業者なので、インボイスを発行します。


洋品店は、インボイスのおかげで納付する消費税が小さくなります。

※インボイス制度とは


そうすると、Aデザインのドレスの最終的な利益率は17.5%、Bスタイルのドレスでは、22.5%になりります。


もし、Bスタイルのドレスが100枚売れたとして、同じだけの利益を手元に得ようとすると、Aデザインのドレスを142枚売らないといけないことになります。


では、縫製工場側の利益はどうでしょう?


Aデザインの利益を見てみると、


消費税を支払わなくてもいい分、洋服業者に卸す価格を抑えたのですが、利益も小さくなってしまいます。



Bスタイルと同じ利益を得るためには、洋品店に卸すときの価格を、5,000円ではなく、5,200円にする必要があります。


洋品店に卸すときの売値を5,200円にしたら、ますますAデザインの価格競争力は下がってしまいます。


これは架空のシミュレーションですが、実際に自分の商品をこのような表にして考えてみると、課税業者になるかどうか、決断するヒントになるかもしれません。


免税事業者ができたわけ


初めて消費税制度が導入されたときに、日本は大パニックでした。


「消費税って何?そんなの計算ができない!」という事業者が続出。


こんな事業者の負担を軽減するために「免税事業者」が設定されました。


その当時は3,000万円以下の売り上げの事業者が対象でした。


今は売上1,000万円が境界線になっています。(国税庁 HP No.6501 納税義務の免除)


それでも、約800万件ある事業所のうち、約300万件しか課税事業者になっていません。


消費税は3%から5%、10%と、じわじわ上がってきましたが、「回収率が少ないと、国民に説明するときの説得力に欠ける」と、政府は考えているようです。


世界を見ると、多くの国では売り上げ500万円ぐらいで、課税事業者になるような法律を作っています。


そろそろ消費税も定着して、消費税対応のレジなども普及したので、「消費税が計算できない」という状況ではない、という意見もあります。(参考資料:事業者免税点制度の在り方についての一考察)


これから、どうなるんでしょうね?消費税。


まだ時間はあります。


利益や不利益をしっかり計算して考える必要がありそうです。