「うちの会社は縦割りだからだめなんだ」
みたいな会話をよく聞きます。

実際に私が組織にいた時も、知らずに他の部署と全く同じことを別々にやっていて「無駄!」と思ったことが何度もあります。

そもそも、「縦割り」って、なに?

というところから、縦割りの生まれ方と、防止策を考えてみました。

縦割りが始まる瞬間


バラバラな人たちを集めて機能的に動かそうとすると、「組織」を作って「役割」を与える必要があります。


組織を作って役割分担、そして上下関係が生まれるとすでに「縦割り」は始まってしまいます。


でも、これだけでは「縦割りだ!」という不満は生まれません。


一般的に「縦割り」と言われるのは、縦に割ったときにおこる弊害。


「自分が所属する部署のことだけ考えて、あとは知らない。」

という気持ちで仕事をすることで、サービスが劣化したり、コストに無駄が生じたり、会社全体の利益が損なわれてしまう。


これが、縦割りの弊害です。


まずは、どんな割り方があるかを見てみます。


機能で割る



上の図のように、「社長」の下に、「総務」、「営業」、「製造」というような役割の人を集めると、機能別に縦割りになっています。

これを「機能別組織」といいます。


機能別組織では、総務部の人は総務のことばかり、営業部の人は営業のことばかりをやるので、「総務のエース」、「営業の星」のような人が出現し、専門性が養われます。



社長は、それぞれの部署のすぐ上にいるので、

「社長!〇〇商店からクレームが来ました!」

「よし、私が行って謝ってくる!」

という感じ。


会社全体を見て迅速な意思決定ができます。


しかし、営業部と総務部の意見が対立したりすると、社長がその仲裁をしなければならなくなるという事態も生じます。


また、例えばAという商品がバカ売れしたときも、一体どの部署の功績になるのかわからない、というようなこともあります。


そして、「総務のエース」、「営業の星」は生まれますが、将来の社長候補になるような全体的な管理ができる人が育ちにくいということもあります。


つまり、機能別に縦に割ったときには、

  • それぞれの部門で専門性が養われ、「プロ」が生まれる。
  • 社長は、会社全体を見て迅速な決断ができるが、部署の対立があると、いちいち調整もしないといけない。
  • 経営管理できる人が育ちにくい。

というメリット・デメリットがありますが、部署の機能がはっきりしているので、外側から見た時にも縦割りの弊害はなさそうです。


企業が小さいときは、これでいいのですが、いくつも事業をもつようになると、割り方を変える必要があります。


事業で割る



組織が大きくなると、社長の下に、小さな会社のような組織を作る必要が出てきます。


たとえば、居酒屋を経営していた会社が、新たにカレー専門店を展開する場合。


居酒屋のほうは「居酒屋事業部」が、カレー専門店のほうは「カレー専門店事業部」が担当したりします。


このとき、会社は事業別に縦割りになります。


同じ事業でも支店が増えると、地域別に割ることもありますが、このような組織を「事業部制組織」といいます。


こうした組織では、業務的な管理の仕事はすべて事業部がやってくれます。


社長は「今月はビールが何本出た」など細かいことからは解放され、「カレー専門店が好調だ。2店舗目を出すぞ」など戦略的なことを考えることに集中できます。



また、「〇〇駅前にラーメン屋が進出してきたから、〇〇店の営業を強化するぞ」のように、現場の状況に応じた決断ができます。


経営者が、会社内部の面倒なことに煩わされず、会社の外に目を向けて自分の会社の立ち位置を把握しながら経営を考えられる組織体制です。


居酒屋事業部の事業部長や、カレー専門店事業部の事業部長は、もはや小さな会社を任されているのと同じです。


次の社長候補に成長することが期待できます。


しかし、居酒屋事業部とカレー事業部のどちらにも、営業やを研究開発部を置いたりしなければならないので、コストがかさみます。


そして、居酒屋事業部とカレー専門店事業部が、まるで別会社のように、それぞれの売り上げにこだわりすぎて競争してしまう。


そうなると結局、居酒屋事業部がカレー専門店に来る客をとってしまうことで、会社全体の利益につながらないというようなことも、起こってしまいます。



つまり、
  • 組織が大きくなると、事業別に割ることが必要になる。
  • 社長は、戦略的なことに集中できる。
  • 事業を任される人がでてくるので、経営管理ができる人材が育つ。
  • それぞれに総務や営業などの機能が必要なので、コストがかかる。
  • 事業部の利益だけに目が行って、会社全体の利益につながらない恐れが出てくる。

「自分が所属する部署のことだけ考えて、あとは知らない。」


でました!「縦割り」の弊害です。

事業がもっと増えると


もっと大きな組織になってくると、社長の下には小さな会社のような組織がたくさんぶら下がります。


その小さな会社のような組織が、だんだん大きくなります。


社長はたくさんの人を束ねるために、ガチガチな規則や手続きを作ってみんなに守らせながら進めていくほかありません。


そうなると、規則を守ることが何より重要だと思われて、時代に合わないことを平気で進めていたりします。



「なんか変じゃないか?」と思うことすら許されない組織になってしまいます。


大きな会社や国の組織では、起こりがちです。


こういうところは、縦割りの弊害の温床。


たらいまわしが横行。


隣の電話にも出ないし、別の部署は敵に思えてきます。



組織の縦割り化とは


ここまで見てくると、以下のことがわかります。

  1. 人は、集まって何かをやろうとするときに「組織化」する。
  2. 役割分担をした時点で、縦割りは始まっている。
  3. 縦に割ることで、社長は外に向いた仕事ができる。人も育つ。
  4. 組織化によって活動が効率的に行われるけれども、デメリットも出てくる。
  5. 組織が大きくなると、経営者が経営の仕事に集中できるよう、階層が増えていく。
  6. もっと大きな組織になると、組織が効率的に機能するためにガチガチな規則で縛られざるを得ない。
  7. 規則を守ることが何より優先されてしまう。
  8. こうなると、縦割りの弊害マックス

縦割り化しない組織にするには


このように、組織は大きくなるにつれて動きが緩慢になるように見えます。


でも、ITベンチャーなどでは、組織が大きくてもスピード感のある意思決定を行い、中にいる社員もアイディアを自由に出し合っているように見えます。


こうした組織は、

  1. 組織構造の階層を減らし、フラットな状態で現場と上層部の距離を無くしている。
  2. 課題解決のために、部門の垣根を越えた一時的なプロジェクトチームを結成。部門間の壁を無くしている。
  3. 上のような横串を恒常化して、部門を越えた情報交換ができるような仕組みを作っている。

などの工夫があります。



でも、いいことばかりではありません。

  1. 責任の所在が分からなくなる。
  2. 命令系統が1本ではないので、だれの指示で動くのか混乱する。
  3. 管理者の守備範囲が広くなって負担が大きい。
  4. 意見の対立も多くなる。

ということもあります。


組織には問題がつきもの


縦割りのデメリットを回避しても、別の問題が生まれることを覚悟する必要があるのです。


  • 組織にも、人間の一生と同じようなライフサイクルがあります。
  • 成長すると、今までの組織構造ではうまくいかなくなり、今の組織に応じた構造に変わっていく必要があります。
  • それでも問題は生まれます。


どんな組織構造にしても、メリットとデメリットがあります。


組織を作るのは、経営者が経営に集中できる環境を整えて企業を継続していくためです。


縦割りの弊害を無くそうとして、経営者が会社内部のことに忙しくなってしまうのは本末転倒です。


組織構造のメリットとデメリットを知って、デメリットを少なくするしくみを作ることが大事です。