貢献利益とは? 赤字の事業を続けるかやめるかを決める方法を解説
「野菜の販売の利益が少なくなってきたので、野菜を使った軽食の事業は残して、野菜の販売のほうはやめようかな?」など、赤字の事業を続けるかやめるか、悩みどころです。
これを判断するときに使うのが、「貢献利益」です。
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貢献利益とは
「貢献利益」というのは、「その事業が、利益を出しているかどうか」、ではなく「その事業が、会社から必ず出ていく経費を払うための助けになっているかどうか」を見る数字です。
「えっ?利益を出していなかったら費用を払えないんだから、どっちも同じことでしょ?」
と思いますよね?
ところが、これがちょっと違います。
「会社として必ず出ていく経費」つまり、売れても売れなくても、必ず出ていく経費だけを取り出して、これを支払うためにその事業が貢献しているかどうかがわかる、これが「貢献利益」です。
これを知らないと、思い違いで事業から撤退し、会社全体の利益を損なうことにもなりかねません。
「もうけが出ていない」とは?
ではまず、このお店が「野菜販売事業はもうけが出ていない」と判断したのはどうしてかを見てみます。
このお店では
A事業:農家の人が持ち寄った野菜や山菜の直売
B事業:野菜を使ったおやきとおみそ汁、おにぎりの製造販売
C事業:その他おみやげ品などの販売
の3つの事業があります。
「A事業はもうけが出ていない」といった時の「もうけ」として見ていたのは損益計算書に書かれる「営業利益」でした。
Aの事業の今年の売上高は1,400万円
その野菜を農家の人から仕入れたときに発生する費用、つまり「売上原価」が1,050万円かかっています。
1,400万円ー1,050万円=350万円
売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」では350万円の利益を出しています。
そして、チラシなどの広告費、借りている土地や施設の家賃、電気代、水道代、そして働いている従業員のお給料など販売するときにかかる費用と会社全体の管理のための費用、「販売費および一般管理費(販管費)」が375万円かかっています。
350万円ー375万円=-25万円
さきほどの「売上総利益」から「販管費」を差し引いた「営業利益」では、-25万円の赤字に転落しています。
営業利益について解説
商売では、商品を仕入れて販売するのが本業なので、105円で仕入れたものを140円で売ると140-105=35で、35円の「もうけ」があります。これは「粗利益」とか、「売上総利益」と言われるものです。
売った時の「140円」というのは「売上高」、仕入れた時の105円は、「売上原価」と言われます。
売上高から売上原価を引いた粗利益(売上総利益)が、1個あたり35円で、1年間で350万円あったとしても、売るためには運賃や電気代やバイト代などもかかります。そのほか、会社を運営していくための従業員のお給料、電話代などもかかります。これは、「販売費および一般管理費(販管費)」と言われるものです。
先ほどの売上総利益(粗利益)からこの「販売費および一般管理費(販管費)」を差し引くと、営業利益がでます。
3つの事業をやっているこのお店の営業利益を見てみると、確かにA事業では赤字になっています。
事業がうまくいっているかを判断する方法
では、赤字のA事業はやめたほうがいいのでしょうか?
必ずしも、そう決めつけることはできません。
複数の事業をやっているとき、それぞれの事業がうまくいっているかどうかを判断するには、「営業利益」ではなく「貢献利益」で考えます。
先ほど営業利益を出したとき、それぞれの事業の売り上げから、それぞれの売上原価と販管費を差し引いていました。
しかし、この費用には、本当にその事業だけにかかっている費用かどうか、わからないものも含まれていたりします。
例えば、お店の家賃は、建物全体にかかる費用なので、「A事業でいくら」「B事業でいくら」というようにきっぱりと割り切れるものではありません。
それぞれの事業の本当の業績を知るためには、こんな全体にかかってくる費用は取り除いて考えなければいけないのです。
実際に、貢献利益を見てみると、どの事業も黒字なのが分かります。
では、貢献利益をどうやって算出するかを解説します。
貢献利益の出し方
やり方は次のとおりです。
- 費用を変動費と固定費に分解
- 売上高から変動費を引く(限界利益)
- 限界利益から個別固定費を差し引く(貢献利益)
- 貢献利益で事業の業績をチェック
1.費用を変動費と固定費に分解
まず、「売上原価」と「販管費」の2つの費用を、変動費と固定費に分けます。
変動費は売れば売るほど増えていく経費です。
野菜が売れると、野菜を仕入れる量も増えます。加工を外に頼んでいるときは「外注加工費」も増えます、運送する回数も増えて「運送費」も増えます。このように、売り上げが増えると増える経費は「変動費」になります。
固定費は、売れる売れないにかかわらず、決まって絶対に出ていく経費です。
お店の家賃、従業員の給料、火災保険料、冷蔵庫のリース代などは、お客さんが来なくても減らすことはできません。こういう費用が「固定費」になります。
2.売上高から変動費を引く(限界利益)
費用を変動費と固定費に分けたら、次に、売上高から変動費だけを差し引きます。これで出てくるのが「限界利益」と言われるものです。
「固定費」というのは、たとえ売り上げがゼロの時でも、必ず出ていく費用ですから、売り上げから変動費を引いたときに、せめて固定費分だけは残っていてほしいですよね。それが捻出できるかどうかを判断できるのが限界利益です。
上の例では、売り上げが100万あり、変動費が30万なので限界利益が70万あります。このときの固定費50万円を支払っても20万円の利益が残ります。
では、下の場合はどうでしょう?
売り上げが100万ありますが、変動費が50万かかっています。限界利益は50万です。このときも、出ていく固定費は変わらず50万円ですので、限界利益を使い果たし、利益は0円となってしまいます。
このように、「必ず出ていく固定費を支払うための利益」が、限界利益です。
3.限界利益から個別固定費を差し引く(貢献利益)
限界利益が出たら、つぎに固定費を確認します。
固定費の中も、それぞれの事業で使っている金額がはっきりとわかるものと、そうでないものがあります。電気のメーターが事業別に分かれている場合などは、その事業だけの固定費になります。これを「個別固定費」といいます。事業全部にかかっている家賃などは「共通固定費」として、「個別固定費」とは分けて考えます。
そして、個別にかかっている経費がある場合には、個別固定費を差し引いて貢献利益を出します。
このお店では、Bの事業だけが、調理をするための設備を使っていたので、その減価償却費を個別固定費として差し引きました。
その結果がさっきの表です。
4.貢献利益で事業の業績をチェック
上の図では、どの事業も貢献利益がプラスになっていることがわかります。こういうときは、どの事業も継続する決定をします。現在営業利益が赤字になっているA事業も含め、どの事業も、共通固定を払うときに貢献しているからです。
貢献利益が黒字の時に事業から撤退してしまうと、その事業から得られたはずの貢献利益が0になってしまいます。
仮にA事業から撤退してしまった時の状態を試算すると、次のようになります。
このように、A事業から得られていた貢献利益がなくなると、売れても売れなくても必ず発生する家賃などの共通固定費を、BとCの事業だけで負担しなければならなくなり、結果的に会社全体で赤字に転落してしまいます。
イメージとしては、下の絵のように、三人で支えていた共通固定費を、2人で支えなければならなくなってしまうようなものです。
まとめ
- 赤字事業から撤退するかどうかは、営業利益ではなく、貢献利益を算出してから決めましょう。
- 貢献利益を出すには、まず、その商品の仕入れ(製造)をしてから販売するまでの費用を変動費と固定費に分けます。
- 売り上げから変動費を差し引くと、限界利益が出ます。
- 固定費を、個別固定費と共通固定費に分けます。
- 限界利益から個別固定費を差し引くと、貢献利益が出ます。
- 貢献利益を出すと、売れても売れなくても必ず出ていく会社の共通の経費を支払うために、その事業が貢献しているかどうかを判断することができます。
- 貢献利益がマイナスの場合は、事業からの撤退も検討します。
このように「貢献利益」を知ることで、それぞれの事業の業績を正しく評価することができ、撤退するのか、テコ入れするのか、などを判断するときに使えます。
今日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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