「うちで働いてもらっている一人親方にもインボイスやってもらわないと」


これは先日、ある建設関係の経営者の方と話しているときに出てきた言葉です。


いよいよ一人親方にも、インボイスの波が押し寄せてきているんですね。



そこで、今回は一人親方にもしのびよるインボイス制度について、考えてみました。


「インボイス」は、「消費税を支払った証拠となる請求書だ」というのは、以前のブログに書いてありますのでご確認ください。

こちらです。


仕入れ税額控除とは


A工務店は、受け取る消費税と、支払う消費税があります。


家を建てた代金をお客様から受け取れば、その中に受け取る消費税が含まれています。


家を建てるときに手伝ってもらった一人親方の山田さんに代金を支払えば、その中にも消費税が含まれています。



税務署に支払うのは、お客さんから受け取った消費税から、山田さんに支払った消費税を引いた額。


バスでいえば、乗った人と降りた人がいて、今乗っている乗客。


お客様からもらった代金は「売上」。山田さんにに支払ったお金は「仕入れ」です。



なので、このしくみを「仕入れ税額控除」といいます。


一人親方に忍び寄るインボイス


消費税のルールとして、売り上げが1000万円を超えなければ、消費税を税務署に支払う義務はありません。


このように消費税を税務署に収めること免除されている人たちを「免税事業者」と呼びます。


山田さんも免税事業者です。


2023年10月からインボイス制度が始まると、山田さんのような免税事業者の立場が悪くなります。


この制度によると、免税事業者が発行する請求書は、消費税を払った証拠として扱われません。



A工務店は山田さんに支払った消費税を「仕入れ税額控除」できなくなってしまうのです。


だからA工務店は、

「うちで働いてもらっている一人親方の山田さんにもインボイスやってもらわないと」

と思ってしまうわけです。


でも、山田さんがインボイスを発行するには、消費税を支払う「課税事業者」にならなければいけません。


山田さんにしてみたら、年間売り上げが1,000万円超えてないから免税されているのに、消費税を支払わないといけないの?

ということになります。


経過措置とは


こんなA工務店と山田さんの間に、少し明るいニュースになるかも、と思われるのが「経過措置」です。


インボイス制度が始まるのは2023年の10月から。


そのあと6年間、

 免税事業者等からの仕入れでも、「仕入れ税額控除」ができる経過措置が設けられています。


全額ではありません。

期間と割合は次の通りです。


・ 令和5年10月1日から令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%

・ 令和8年10月1日から令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%



仮にA工務店が山田さんに支払った消費税が5万円だとすると、令和8年9月までは4万円を、令和11年9月までは2万5千円を「仕入れ税額控除」できるのです。


とはいえ、A工務店では経理が面倒です。


山田さんに支払った消費税は5万円。

え~と、今令和6年の7月だから控除できるのは80%の4万円か。

残りの1万円は「雑費」として計上。


A工務店で経理をしている奥さんからは、

「インボイスを発行してくれていれば、こんな面倒はないのに」

と思われるかもしれません。


山田さんは肩身が狭いですね。


簡易課税制度


免税事業者の山田さんに対する世間の風当たりは、日に日に強くなります。


でも、山田さんにしてみれば、

A工務店はいいよね。仕入れが大きいから消費税の控除も大きい。

それに引き換え、自分は腕一本で仕事してるんだから、仕入れなんてない。

消費税払いっぱなしだ。

という気分です。


もともと、消費税は預かっているだけで、山田さんの取り分ではないですから、「消費税払いっぱなし」は当たり前のことなのですが、気持ちはわかります。


そんな時、もう一つのいいニュースが、「簡易課税制度」です。


消費税の支払い方法は、2つあります。

  • 一般課税制度
  • 簡易課税制度


一般課税制度


一般課税制度は、実際に売り上げたときにお客さんから受け取った消費税と、自分が仕入れの時に支払った消費税をちゃんと計算する方法。


簡易課税制度


簡易課税制度は、売り上げたときにお客さんから受け取った消費税をもとに、仕入れの消費税を計算する方法。


国税庁では、「小売業だったら売り上げの90%を仕入れとして考えてもいいですよ」

というように、業種によって仕入れ率を決めてくれています。

詳しくはこちら



これだと、ほとんど仕入れのない山田さんでも、ざっくり売り上げの7割を、仕入れとみることができます。




A工務店から50万円の仕事を請け負って、5万円の消費税を受け取ったとき、その70%の35,000円が仕入れの消費税とみなされるので、15,000円を税務署に収めればいいことになります。


いちいち仕入れの消費税を計算しなくてもいいし、消費税を支払った証拠も必要ありません。


消費税払うなら簡易課税制度のほうがいいな

と思ったら、

消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。


ただし、簡易課税制度を選択できるのは年間売り上げ5,000万円未満の業者や事業主だけです。


人によっては、

簡易課税制度の割合だと、仕入れ税額が少なくなるなあ。

めんどくさいけど、一般課税制度にするか。

ということもあるでしょう。


インボイス制度、複雑でわかりにくいですが、ほったらかしていると自分が損をしてしまうかもしれません。


わからないことは、税務署などに聞いてすっきり解決しましょう。