土地開発公社とは ~公共工事のスタートは、工事じゃなかった?~
工事現場を見ると、「何ができるのかな」とちょっとわくわくしますよね。
暑い中大変だなーとか、
大きな重機を扱っている姿がかっこいいなとか、
現場で汗を流す人は、目に見えるので大変さを感じることができます。
でも実はそのもっと前に、大変な仕事をしている人がいたのです。
目に見えない仕事
日本の国土の約半分以上は私有地。
つまり、新しく道路や公共施設を整備しようとするとき、ほとんどの場合、民間の土地を買い取る必要があります。
そしてその土地を、決められた期限内に、適正な価格で取得し、行政に引き渡す――
その仕事を担っている人たちがいなければ、工事は始められなかったのです。
土地開発公社の役割
そんなことを私が実感したのは、つい先週のことです。
今年の4月に秋田県土地開発公社の理事に就任した私は、職員の皆さんに向けての研修後、現在開発が進められている現場を視察させていただきました。
- 記録的な大雨を経て、今後の浸水被害を見据えて行われる河川改修事業
- 繁華街から官庁街へ向かう道路でボトルネックとなっている部分の拡幅事業
- 港からインターチェンジを結ぶアクセス道路事業
の3か所です。
視察先の現場で感じたのは、「土地を買う」という一言ではとても片づけられない複雑さでした。
中途半端な土地が残ることも
道路の幅を広げる計画では、所有者の畑の一部だけが、斜めに切り取られてしまうケースが出てきたりします。
所有者からは「残った土地が使いづらいから、全部買ってほしい」という声が上がるのは当然。
でも、必要のない土地を買うわけにはいきません。
つらいところです。
価格が決められている
地価の下落があった時などは、所有者が購入した当時の値段よりも安い金額しか提示できないことも。
それでも、税金ですから融通を利かせるわけには行きません。
所有者が複数人
土地の所有者が、登記簿どおりじゃないこともしばしば。
蓋を開けてみると、所有者が亡くなっていて、複数人が相続しちゃってるなんてことも。
「どこに相続人がいるのか分からない」
「そもそもその土地のことを知らない」
というケースも多く、交渉ができる状態にするまでに時間がかかることも少なくありません。
昔ながらの商店街の道路拡幅となれば、雑居ビルの所有者だけでなく、テナントのオーナー一人ひとりとの交渉が必要です。
お店を作った当時、お金をかけて自分好みに内装をしつらえたお気に入りの空間が、この値段?
と言うオーナーの気持ちと、自治体側の計画の間に挟まれながらの交渉、難しそうですよね。
そんな中でも、都市計画のスケジュールは決まっていて、変更はできません。
交渉が必要なのは、将来完成する部分だけではありません。
実際の現場では、
- 工事中に使う仮の通路や仮設道路
- 工事機材や資材を置く一時的なスペース
- 作業車の出入り口となる通路の確保
など、一時的に使用する土地についても所有者との丁寧な交渉が必要になります。
- 決められた区画の土地を、
- 決められた価格で
- 決められた期限内に
- 数多くの所有者から買い取る。
事だったのです。
交渉のプロフェッショナル
こうした仕事を進めるには、単に不動産の知識だけでは足りません。
- 法律や制度への深い理解
- 土地価格の評価に関する知識
- 関係者の立場や気持ちをくみ取る共感力
- 多様な利害を調整する粘り強さ
- スケジュールを守る正確な事務処理力
そして何より、誠実で信頼される人間性が求められます。
土地の所有者にとっては、その場所は家族の思い出が詰まった大切な場所かもしれません。
そうした気持ちに向き合いながら、公共の未来を形にしていく。
決して簡単なことではありませんが、これが無ければ始まらない、大事な仕事です。
土地開発公社の仕事は、表に出ることはありません。
でも、ここに道路があるということは、交渉がうまくいったから。
あのダムも、この道路も、この道の駅も、数多くの交渉の上にあるんだと思うと、なんだか背筋がピンと伸びる気がします。