売り上げ金額が年間1,000万円以下の事業者は、商品を売ってお客様から消費税を受け取っても、それを税務署に支払う義務はありません。


が!


インボイス制度が始まると、この状況がリスクになるかもしれません。


どういうこと?




インボイス制度とは


そもそも、インボイスって何?


インボイスとは


インボイスとは、請求書のこと。


商品の金額と消費税の金額が書かれています。



じゃあ、普通の「請求書」と変わらない?


見た目は、なんら変わりません。


発行する「人」が違います。


消費税を支払う事業者が発行すれば「インボイス」。


消費税を支払わない事業者が発行すれば、今まで通り「請求書」です。


細かいことを言えば、


税務署に行って登録をして登録番号をもらい、請求書にその登録番号を書かなければ、インボイスとは呼べません。


必要なことが書かれていれば、むしろ請求書じゃなくて、納品書でもインボイスです。


その他、注意事項がいろいろありますので、それは、国税庁のHPを確認してみてください。


それで?


そのインボイスを発行できると、何かいいコトあるの?


売上が1,000万円以下なのに、消費税を払ってまで、やる価値があるの?


と、思いますよね。


「自分に、いいコトがある」というよりは、「取引先に、いいコトがある」という制度です。


Sミートと、Pハムという架空の会社の例で考えてみます。


SミートとPハムの例


SミートとPハムは、ハムやソーセージを作っている会社です。



Sミートは消費税を支払う「課税事業者」。


つまり、Sミートが発行する請求書は「インボイス」です。


Pハムは、「免税事業者」。


なので、インボイスではなく、普通の請求書を発行します。


Aスーパーでは、SミートとPハムからソーセージを仕入れました。


どちらも仕入れ価格が税込み1個110円です。


Aスーパーに、SミートとPポークから請求書が来ました。


Aスーパーは、どちらの会社にも、ソーセージ1個分の100円と、消費税の10円を支払います。



そして、ソーセージ税込み1個220円で店頭に並べ、お客さんに買ってもらいました。


お客様からソーセージの代金200円と、消費税20円を受け取りました。



納税の季節到来


さて、Aスーパーに納税の季節が来ました。


Sミートからはインボイスをもらってあるので、それを「消費税をSミートに払いました」という証明書として、お客様からもらった消費税から、その分を差し引き

20円ー10円=10円

の10円を納税します。


一方、Pハムからは、インボイスをもらっていません。


消費税を支払った証拠がないので、お客様から受け取った20円を税務署に払います。



確かにPハムに、消費税を払ったはずなのに、税務署にその分を差し引いてもらうことができないのです。


Pハムに「頼むからインボイス出してよ。」と言いたくなります。


Pハムは、消費税を支払うか、Aスーパーに嫌われるか、どちらかを選択することになるのです。


つまり、「インボイス制度」とは、


仕入れたときに支払った消費税は、インボイスがあると、売り上げたときの消費税からその分を差し引くことができる。


という制度です。


インボイスを発行するかどうかは、


取引先にメリットを与えるかどうか


なのです。


Pハムの選択肢


一体、Pハムはどうすればいいのでしょう?


インボイスを発行するということは、自分も税務署に消費税を支払うということです。


もし、Pハムが、


インターネットで通信販売をしていて、個人のお客さんがたくさん買ってくれるので、Aスーパーから取引を解消されても怖くない。


という状態なら、免税事業者のままでもいいかもしれません。


また、Pハムのソーセージがとても人気があって、Aスーパーの目玉商品だとしたら、Aスーパーも、インボイスは関係なく、Pハムとの取引きを続けざるを得ないでしょう。


公的な機関と取引がある業者の場合


「個人のお客さんに売るからいいや」と言える業者だったら、問題ないかもしれません。


これが、入札などで公的な機関から業務を委託されている会社だったらどうでしょう?


入札の段階で、インボイスを発行できる業者との競争になってしまいます。


「インボイスが発行できない業者とは取引しない」という機関も出てきているようです。



国税庁のホームページでは、インボイスを発行している事業所のリストを公表していますから、どの事業所がインボイスを発行しているか、簡単に調べることができます。


政府としては、きちんと税金を支払っている事業所に「お墨付き」を与えて優遇しようということです。


インボイスのことを「適格請求書」

インボイスを発行できる事業所を「適格請求書発行事業所」などと、漢字を10個も並べて呼んでいます。


決断の時期


インボイス制度が始まるのは令和5年10月1日。


インボイスを発行する業者になるかならないかの決断は、令和5年3月31日までに行う必要があります。


もし、業者が年間売り上げ1,000万円を超えたら、自動的に課税事業者になるので、その時は必ず、インボイスの登録を申請したほうがいいですね。


1,000万円以下の時が、消費税を支払う業者に「なる」、「ならない」の選択を迫られてしまうのです。