ものづくりとお母さん


今日食卓に上る「卵焼き」は、以下のもので、できています。

  • 「たまご」という原材料・部品(Material)
  • 「ガスやフライパン」という機械設備(Machine)
  • 「おかあさん」という作業者(Man)
  • 「レシピ」という作業方法(Method)
  • 「卵が安い日の情報や、おいしい卵焼きの情報など」という情報(Information)

「ものをつくる」という原点にあるのは、この4つのM(エム)と1つのI(アイ)


この時、お母さんの役割は巨大です。


すべてのMとIを合理的に運用して質の高い卵焼きを、ご飯の時間ぴったりに、テーブルに納品(?)しなければなりません。


頭の中はフル回転、手もフル回転、家族が気持ち良く健康でいられるために仕事をしています。


こう考えると、お母さんというのは、毎日が製造業。


そんな女性の力を信じて、会社の力にしたいと願っているのが、フルヤモールドの古谷美幸常務です。


フルヤモールドとは


フルヤモールドは、1988年に現在の古谷武美(ふるやたけみ)社長が31歳で創業した部品製造会社。


3Dプリンターを使った試作品から始まって金型を作って量産するまで、すべてをお任せできる会社です。


「こんな時にこうしたいんだけど」と伝えるだけで、製品にしてくれるのですから、お得意様は大助かり。



1社ですべて完結するので、品質のばらつきや納期の遅れなどの心配もありません。


武美社長が創業した1988年は、バブル最高潮。


その3年後にはバブル崩壊です。


社長は、高い技術力と決断力で、激動の時代を乗り越えているのです。


美幸さんが経営マインドを持つまで


そんな社長をお父さんにもつ美幸さんは、小さいころから「社長の娘」という ”まくら言葉” がついてまわり、逆にフルヤモールドに就職する気はさらさらなかったようです。


かといって、何かになりたいという強い気持ちもないまま元気に成長し、地元の企業になんとなく就職、その後数年たって、なんとなく退職し、20代前半に父の会社に就職します。


この時も、あまり意志を持たない、指示待ち人間の美幸さんでしたが、一従業員として父親である社長の会社で仕事をすることで、経営者側と従業員側の両方がよく見える場所に立つことになりました。


結婚・出産・離婚・子育て、いろんなことを経験しながら、会社での仕事を続けているうちに、

「こうしたらいいんじゃないか」という会社への改善の考えがでてきます。


でも、言っても誰もついてこない。影響力は弱小。


自分の言葉に力がないなあと感じながら、仕事を続けていました。


秋田未来塾


子育てもひと段落ついたある日、取引先の銀行さんにも勧められ「秋田未来塾」という経営者の卵を育成する場に参加します。


そこでの齊藤大樹さんとの出会いが、美幸さんの心に小さな嵐を引き起こすことになります。


齊藤大樹さんは、以前書かせていただいた斎藤光学製作所の斎藤伸英社長の息子さんで、この8月には社長に就任予定。


それまで大手化学メーカーにお勤めだった大樹さんは、当時から自身が経営していく斉藤光学製作所の課題をとらえて、改善に意欲を燃やしていました。


そんな齊藤大樹さんをはじめとする経営者の卵の集まりの中で、学んだり話し合ったりするうちに、美幸さんの気持ちも、経営に対してどんどん前向きになっていったといいます。



今まで抱えてきた


自分の強い意志はそんなにあるわけじゃないけど、人に強要されるのは嫌。


という気持ちの葛藤から解き放たれて、入社から19年目の2017年、強い意志を持って「経営者になる」宣言をします。


父とは違う経営を


コロナの状況下で、大きな決断をし続けている現社長の姿を見ると、改めて「すごい人だな」と感じるとは言いますが、父親のような社長を目指しているわけではありません。


チームの一員としてこの会社で長年仕事をしてきた経験、ここで働く女性たちと同様、仕事と家庭を両立してきた経験、などなど、現社長が経験していないことを、自分は経験してきている。


現社長は技術畑の出身だから、技術的な指導もできるし、製品のアイディアもポンポン出てくる。


でも、自分は何もないからこそ、社員全員の力を必要としていて、マネジメントに徹することができる。


そこからの組織づくりがしたい、と考えて、行動を始めています。


美幸さんの目指す組織


社長1強からの脱却


美幸さんが目指すのは、凄腕の社長がぐいぐい引っ張っていく組織ではなく、ワンチームで進む会社。


現在、製造部門のリーダーとして活躍している美幸さん、こまめな話し合いを大切にしています。



自分が持っている情報はなるべく社員の方に伝え、みんなが自分で考えるためのネタを増やしています。


そのおかげで、

現場の仲間たちも、作業の工程や動作が「今のままでいい」というのではなく


  • なくせないか、
  • 一緒にできないか
  • 順序の変更はできないか
  • 簡単にできないか


を常に考えながら仕事をするクセがついてきたといいます。



この流れを、会社全体に広めて、会社のカラーにしていきたいと考えています。


女性の力を活かす


実は、フルヤモールドの従業員は、兄弟でフルヤモールド社員、とか、親子でフルヤモールド社員、などという人が結構います。


お父さんやお兄さんが働いている姿を見て、「自分もフルヤモールドで働きたい」と思っているということです。すごい!




従業員の満足度というのは、製品やサービスの品質に直結します。


従業員の中でも、女性従業員の満足度をもっと引き上げて、会社のパワーにしていきたいというのが、美幸さんの願いです。


目に見えないところで、細かい気配りがあったり、会社のためにベストを尽くしてくれる女性。



そんな女性がもっと働きやすくなれば、会社はパワーアップすること間違いなし。


自分も、女性として仕事と家庭を両立してきた経験があるので「女性が働きやすい職場」を自分のこととして考え、改善をしてきました。


だいぶ働きやすくなっているとは感じていますが、これからも時代に合わせていろんな制度を取り入れていきたいといいます。


地元で働いてくれる人を増やそうと、異業種との婚活事業も計画しているとか。


常に周りの力を結集して何かをしようとするのが、美幸さん流です。


「何かあったら俺に言え」って言われても、そんな人に相談できますか?

聞いてもらえそうにないですよね。

だから、いつも従業員に寄り添っている経営者になりたいんです。


と話す美幸さん。


父親の背中から学んだ攻めの姿勢と、従業員として過ごしてきた経験をもつ女性ならではの視点をもって、一日として同じ日はない経営者への道をすすんでいます。



※「経営者になることに何か不安はありますか?」という質問に「ないです!」と間髪入れずに答えてくれた美幸さん。

楽しくおしゃべりしてたらあっという間に時間が過ぎてしまいました。

新生「フルヤモールド」が、楽しみです!


フルヤモールド考案の飛沫防止扇のチラシを持つ美幸さん