先週、BS放送で刑事コロンボの再放送「殺意の斬(き)れ味」を観ていたら、最初は信頼していた共犯者に、どんどん不信感が募り、相手の罪を暴露しあって、結局二人とも逮捕されるというストーリーでした。


「信頼して協力していれば良かったのに、勝手に行動して相手を出し抜こうとすることで結局は損をする」というのを、経済学では「囚人のジレンマ」といいます。


今回は、この「囚人のジレンマ」を取り上げました。


「殺意の斬れ味」のストーリー


「殺意の斬れ味」では、暴力的だけど金持ちの夫クリフォード、その妻キャサリン、その愛人のパトリック、そして、クリフォードと仕事上のトラブルを抱えるハワードが登場します。



キャサリンとパトリックは、ハワードを殺してその罪をクリフォードになすりつけようと考えます。



最初はうまくいっていますが、コロンボにそそのかされて、最後はお互いに相手をののしりながら自白してしまうというお話です。


囚人のジレンマとは


例えば、

  • お互いに黙秘ができれば、お互い懲役2年
  • 片方が自白すると、自白したほうが情状酌量で無罪、黙秘をしたほうが懲役30年
  • お互いが自白すると、お互い懲役10年

になるとします。



このような表で考えると、お互いに黙秘を続けるのが、2人にとって一番の選択肢です。


でも、相手が信用できなくなって、自分のことしか考えられなくなると、どうでしょう?


例えば、パトリックは、

  • キャサリンが黙秘した場合、自分は自白したほうがいい。
  • キャサリンが自白した場合も、自分が自白したほうがいい。

と考えてしまいます。


キャサリンも同じです。

そうすると、お互いに自白してしまい、刑事コロンボの思うツボです。

「囚人のジレンマ」実際の例


囚人のジレンマの実例と思われることが、世の中では沢山発生していますが、日本からマスクが消えた日のことは、まだ記憶に新しいですね。

これも、冷静な時は、
「みんながマスクを買い占めたら、本当に必要な人がマスクを使えなくなり、日本中の人が大きな問題に直面する」
とわかっていても、あのような前代未聞のパニック状態になると
「自分が買い占めないとほかの人が買い占めて、自分が買えなくなる」
という不安に陥って、結局はお互いにとって一番良い選択肢を選べなかった「囚人のジレンマ」の例と言えます。

電機屋さんのジレンマ


以前「どこよりも安い!」電機屋さんが乱立していた時代がありました。

例えばY電機で9,800円の扇風機がK電機で9,790円だった場合、Y電機の店員さんに「K電機ではこの扇風機は9,790だったよ」と告げると、すぐにその値段を下げてくれるというものです。


お互いに値下げ戦争をして、お客さんに安く提供してくれていると思いきや、そうではなかったらしいです。

例えば、K電機で9,790円だったからと言って、Y電機がそこから10円引いて9,780円にしたら、どうせまたK電機がそこから10円引いて、9,770円にするに決まっています。

こうやって競争していっても、単に、いつものお客さんが、安い方のお店に、行ったり来たりするだけです。

「どこよりも安い!」という看板は、「そっちが値下げしたらこっちも値下げする。そっちが値下げしなければ、こっちもそのままにする」という、ライバル店に向けたメッセージだったのです。

別にお互いが談合して、値段を一緒にしていたわけではありませんが、お互いの行動を予測して、相手を裏切ることはやめて、相手の価格を見ながら、9,800円あたりにしておくことで、お互いがHAPPYになっていたわけです。

これは、キャサリンとパトリックが、「お互いに黙秘をして、2年の刑期ですませよう」とメッセージを交わしてお互いを信じていれば、たどり着けた選択肢です。

この理論は「囚人」をたとえに使っているので、「一番いい選択肢」といってもずるい選択肢になってしまっていますが、人を信じることや、協調性のある行動は、自分にとってもいい状況の社会で暮らせることを教えてくれています。

逆に、一部の人の、人を信じない行動や自分の目先の利益に走る行動が引き起こす社会的損失はとても大きくて、最終的には、その一部の人も残念な社会で暮らすことになってしまうことも教えてくれる理論です。