斉藤光学製作所で社長のお話を聞いていた時、「隣で社員が研修しているのでのぞいてみますか?」と言われて行ってみると、なんと!

会社の一室は「お芝居の稽古場」と化していました。



演劇のスキルで社員が変わる

秋田県には、世界に誇る「わらび座」という劇団の本拠地があります。演劇を通して地域の民話や歴史をよみがえらせて、伝えてくれている集団です。

このわらび座では、「シアターエデュケーション」という事業を行っています。

上の図は、そのパンフレットの一部です。

役者さんは、人前で自分の感情をさらけ出すこと、相手の感情をつかみ取って反応することなどを訓練していますが、そうした訓練を社員教育に応用する、とても興味深い試みです。


本来は、わらび座の本拠地で1~2日で行われているプログラムですが、斉藤光学製作所では、わらび座のプロの役者さんである鈴木潤子さんをトレーナーとして契約。「シアターエデュケーション」を社内で毎月2時間、勤務時間内に行っているのです。


社員の方は、気づかなかった自分の一面を発見したり、相手に自分の感情を伝えることに自信を持ったりと、うれしい変化が生まれているそうです。



こうした「人間力の育成」は、多くの日本の企業が最も苦手とするところだと言われています。


日本の企業の多くは、自分の会社の、それも、役に立つ人材を育てようとすることが多いようです。「将来のわが社のために・・・」などと言いながら、その「将来」が、今の会社の延長線上にあると信じていたりします。


でも、今は不確実なのが普通の社会とも言われ、コロナ禍のように、昨日当たり前だったことが今日は当たり前ではなくなる社会です。


今は不足して大騒ぎになっている半導体でさえ、その地位を脅かされる時が来るかもしれません。

昔、電気を通すモノと言ったら真空管でした。それがトランジスタという全くの別物の出現で消えてしまい、そのトランジスタも半導体の出現でその地位を追われてしまいました。いつなんどき、半導体がなくなってもおかしくないわけです。


そんな社会で、「今のこの会社」に必要な人を育てても、いつか使えなくなってしまいます。



反対に、どこにいても能力を発揮できる力を「エンプロイアビリティ(雇用される能力)」と言いますが、エンプロイアビリティをつけることで、自信をもって意欲的に働くことができます。

「社員みなさんの、幸福の実現をサポートする会社でありたい」という人材育成に対する社長の想いが、社員のエンプロイアビリティを育てることにつながっているようです。


会社は「今のこの会社に必要な人」ではなく、「これからの世界に必要な人」を育てることが必要です。

これからの世界に必要な人とは

内閣府は、これからの世界を、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会、Society5.0と名づけました。


このSciety5.0(ソサエティー5.0)というのは、全ての人とモノがつながって、新しい価値を生み出して世の中の問題を解決していく社会です。

経団連は「Society5.0時代を生き抜く人材」を

会社の中だけで問題を解決しようとするのではなく、外部とのネットワークで情報や知識を得て、自分が持っている情報や知識と組み合わせて課題を解決できる人材

としています。企業は、こうした社員を育てていくべきと言えます。


必要なのは、自分と違う考えを受け入れ、取り込んで、組織の壁を越えたチームで新しいものを生み出す力です。


そこで必要になるのは、自分の考えを伝えられる、相手の考えを理解できる、「コミュニケーション力」


今回、それを育てている現場に遭遇することができたわけです。

内側に力を持った存在に

齊藤社長は、

「原子」って、一つ一つが質量をもっていて、そこに熱が加わると核融合してエネルギーがどんどん生まれてきますよね、社員にはそんなイメージを持っているんですよ、



と言います。


燃やされると無くなってしまうガソリンのようなものではなく、どんどん中からエネルギーを生み出し続ける原子のようなもの?


なるほど、単なる労働力として社員を使い倒す会社は、せっかく無限のエネルギーを生み出す人材を無駄にしているというわけです。



「期待」を「しくみ」に

斉藤光学製作所では、他にも、大学生のインターンシップの実施や、つくばの産業総合研究所のオンライン講座の受講など、外の空気、情報、知識、文化などをどんどん取り込んでいます。


社員に対する期待を、言葉ではなく「しくみ」に変えて、それがすでに会社の文化になっています。


そして、社長のFaceBookを見ると、この「シアターエデュケーション」を、会社のCSR活動としてほかの企業に出前までしている様子。もはやシアターエデュケーションの伝道師?

CSR活動とは

企業が世の中に与える影響というのは、かなり大きいと考えられます。

周りの人たちにいい影響を与えるために、本来のシゴトだけでなく、企業ができる社会貢献をしましょう、というのが会社のCSR(Corporate Social Responsibility)活動です。

木を植えたり、募金活動をしたり、ゴミ拾いをしたり、という活動がよく見られます。

「シアターエデュケーションの出前」というCSR活動は、斉藤光学製作所ならでは。

「秋田の若者は内側にはいいものを持っているのに、コミュニケーション能力で損していると思います。コミュニケーション能力を高めて、秋田の若い世代をもっと元気にしたいんです。」という社長の想いが詰まった活動です。


こんな齊藤社長ですが、今年60歳になるのを機に、すでに会社に社長引退の決意表明をしていて、商工会などの要職も降りる手続きを始めているとか。

いろいろなことを乗り越えて得られた立場に、全く執着していない様子。

「いくら頑張れと言っても、席がなければ次の人が頑張れないですから」

と、ここでも人を育てていました!