ソクラテスやプラトンは「対話」を重視してきました。

1対1だと相手の気持ちもよくわかるし、相手に合わせて話をすることができます。

でも、大勢の前で話す時にはそうはいきません。

そんな時、どうしたらいいかを考えたのが、アリストテレスです。

ロゴス(内容の正しさ)=論理性


アリストテレスはアレキサンダー大王の家庭教師でした。

大王のスピーチを支えなければならなかったんですから、聞き手に「なるほど」と思われる話し方をいろいろ考えていたんですね。


聞き手の判断の基準は3パターン


アリストテレスが言うには、話の内容を正しいと思う時の判断は、3パターンあるようです。


1.過去に起こったことの判断


1つめは、過去に起こったのが正しいかどうか。


例えば、本当にAさんが強盗したのか。


それを聴いている人に、「事実かどうか」を正しく判断してもらうための話をする必要があります。



2.将来起こることの判断


2つめは、将来起こることが、正しいかどうか。


基準は、「損か得か」です。


聞き手に、「なるほど、それは利益がある」と思ってもらう話をする必要があります。



3.オブザーバーの判断


3つ目は、コメンテーターなど、オブザーバーが「その話は、良い話か」を判断。


その時の基準は、「美しいか醜いか」です。


あの人は確かに法を犯してしまった。でも、子供を助けるためににはそれしか方法がなかった。


など、第三者の見物人にとっては、法的に正しいかどうかとか、損か得かよりも、美しい行為かどうかが、判断基準になるというのです。



なるほど。


聴いている人は3パターンあるんですね。

  • 過去を判断する当事者の場合
  • 将来を判断する当事者の場合
  • オブザーバーの場合


この中の、どのパターンなのかを知り、内容を変えるわけですね。

  • 事実を証明する。
  • 損か得かを証明する。
  • 道徳的だということを証明する。

という感じでしょうか。


その上でアリストテレスは、

「全ての聞き手は裁判官だ」

と言っています。


自分の話によって、聞き手に物事を判断させるわけですから、裁判官に話すように慎重に話さないといけないということですね。


そのうえで、どんな立場の時でも使える「正しいと思われる技術」を教えています。


論理的だと思われる技術


どんな話でも、まずは

聞き手が想像できるような、経験したことがあるような話から始める

ということが必要とのこと。


そうしないと、頭に入ってこない。


そのための技術をいろいろ教えています。



事実


「先週A店でラーメンを食べたらまずかった。」などと事実を語る。


比喩


「人生は夏休みみたいなものですよ。どう過ごすかは自分次第です」などと比喩を使う。


寓話

「ウサギとカメ」のようなみんなが知っている話を例に、「だから油断してはいけないんです」

などと寓話を使う。

   

アリストテレスの「弁論術」でもイソップ童話の例が書かれています!


イソップ童話って、アリストテレスの時代からあって、みんなが読んでいたんですね!!


知らなかった!


格言


「失敗は成功の母である」などの格言を使う。


そうすると、その人が道徳的に見えるメリットがある。

とアリストテレスは言います。


でも、失敗したこともない人がこれを使うと逆効果。


薄っぺらな人だというのがバレてしまうので、注意が必要とも書いています(笑)。


推論(エンテュメーマ)


この「推論」こそは、アリストテレスの代名詞。


「AならばBである。」


これを使うんですね


具体的な事実を証拠にする


AだからBである。

のAを沢山持つことがとても大事です。


そうでなければ、Bが導き出せないから。


例えば、

私が先日から2回も見てしまった映画「Perfect Days」を、相手にも見てもらいたいと思ったら


「○○だから見て欲しい」

の「○○」が沢山あったほうがいいということです。


その時の「○○」は、私の感想ではなく、「事実」


  • 役所広司が主演だよ。
  • 監督は、ヴィム ヴェンダースだよ
  • カンヌ映画祭の主演男優賞を取ったよ。
  • アカデミー賞にノミネートされたよ。

などなど、沢山の事実を用意します。


相手の言葉を証拠にする


「AならばB」という時に用意する「A」は、


「あなたは以前、役所広司が好きって言ってましたよね?」


というような相手の言葉を事実として持ってくるのも有効だとのことです。


権威ある人の言葉


「あの有名な評論家も言ってますよ」

などと権威のある人の言葉を持ち出す。


データや数値


「総動員数70万人突破しました。」

などの証明できるデータを出す。


などなど、他にもいろいろなことが上げられています。


相手が納得する事実をいろいろ用意するといいということです。


この時も、漠然とした話ではなく、具体的で聴く人が経験したような事実、簡単に想像できる事実を用意するのが大事だとのことです。



言葉の大事さ


ただ伝えたいことを伝えるだけでは、相手の行動は促せない。

と言葉を駆使したアリストテレス。


こうした弁論術は、海外では学校で教えられているそうです。


私たち日本人は、こういう技術を学ばずに「ディベート」なんてやっていますが、ちょっと違うかもしれないですね。


言葉が電波によって一瞬にして世界中に拡散してしまう現在、

「すべての人は裁判官である」

という気持ちで言葉を発するのは大事かもしれないなーと思いました。