CRMとは ~マートベリータグチが移動販売を続けるコツは?~
2022年の秋、私は限界集落を回る移動販売車「マートベリータグチ」にくっついて一日中走り回り、お客さんに聞き取り調査を実施しました。
移動販売を始めても、採算が取れずに断念してしまう人も多い中、どうして48年も続けていられるのか、とても興味津々でした。
同行してみてわかったのは、この移動販売車がこの上ないCRMを行っていたことです。
CRMとは
- CRMのCは、Customer(カスタマー)つまり、「お客様」です。
- CRMのRは、Relationship(リレーションシップ)つまり「関係」のこと。
- CRMのMは 、Management(マネジメント)つまり、「管理」です。
日本語では「顧客関係管理」と直訳します。
買いに来てくれるお客さまが、どんな人で、どんなものに興味があり、どんな買い物をしているかなどの情報を把握したうえで、お客様が満足できるサービスを提供します。
そうして
お客さまとの良い関係性を継続してずっとお客様さまでいてもらう
というアプローチです。
CRMは昔からある?
近所に個人商店があり、お客はいつものメンバー
という時代は、そんなことは当たり前でした。
今お店に入ってきたお客様は、柑橘系の果物が好きだとか、食べ盛りのお子さんがいるとか、お店の人は良く知っていました。
そのうえで、「今日はみかんお買い得ですよ!」などと声をかけるわけです。
サザエさんにも、そんな八百屋さんが登場しますよね。
でも、今スーパーに行っても、私がどこの誰かを把握している店員さんはいません。
だから、ポイントカードを作りませんか?と声をかけてくるのです。
ポイントカードに年齢や住んでいる場所などを記録させ、いつ何を買ったかの情報を集めます。
そうして情報を分析して
「この地域に住む30代から40代の女性には、このデザートが売れている」
などとわかったら、お店の品ぞろえのヒントにしたり、次のサービスにつなげたりします。
そして、シャンプーを買ったお客には、3か月後に使えるシャンプー割引券を発行し、また買ってもらえるようにします。
これが現代版CRMなんですね。
私が同行した移動販売車には、ポイントカードはありません。
お客様の情報はすべて把握しているので、ポイントカードで情報を集める必要はないのです。
Aさんのところは、マルちゃん正麺のしょうゆ味が好きだけど、そろそろ切れるころだから持って行ってあげようかな?
という具合に、持っている情報からお客様の要望を判断し、その品物を並べた上で、家のすぐ近くまで行きます。
来てもらったほうは、「助かる~。ありがたい!」となるわけです。
すごくないですか?
2つのCRM
CRMには、「層別」と「個別」の2つがあります。
層別対応
層別というのは、ランク別の管理です。
- 買い物に来る頻度
- 一度に買ってくれる金額
- 最近いつ来たか
の3つでランク別に分けて、そのランクによってサービスをするものです。
航空会社は、マイルなどを使って、層別で乗客を管理しています。
どこの誰であろうと、しょっちゅうビジネスクラスに乗っていれば、一律に優良顧客としてのサービスを受けることができます。
優良顧客には手厚いサービスをして、お客様の満足度を上げてリピートしてもらう。
それが、層別対応です。
個別対応
個別対応は文字通り、一人一人のお客様と対話して得られた情報をもとに、その人に合った対応をしていくものです。
One to One Marketig(ワントゥワンマーケティング)とも呼ばれます。
高級専門店はまさにこれ。
「佐藤様、お待ちしていました。先日お買い上げいただいたコートはいかがでしたか?」
などと声を掛けられるので、
お客様は、
「この店員さんは私のことをよく理解してくれている」
と感じ、そのお店のファンになります。
「マートベリータグチ」は、まさに個別対応。
「この前買ったお魚、おいしかった。なんだっけ?」
「ああ、金華さばの炙りね。今日も持ってきたよ。」
という具合です。
お客さまが何を買ったかを記憶していて、継続して買い物をしてくれる関係性を作り上げているのです。
買い物を楽しみたいお客様、おしゃべりを楽しみたいお客様、すべて把握して対応します。
足の悪いお客さんには、品物を玄関まで持っていってくれます。
究極の「ワントゥワンマーケティング」です。
移動販売継続のコツ
移動販売のお店側のメリットは、お客様の家まで行って品物を販売できること。
来てもらうのを待つよりも、買ってもらえる確率はぐんと上がります。
そして、お客様の様々な情報を入手でき、きめ細かい個別対応のCRMを実現することができます。
大きなスーパーではできないことです。
このメリットを生かせる「攻めの移動販売車」だからこそ、お客様に支持され、ずっと続けられているんだなー、と肌で感じることができました。