ツバル事情 第4弾 ~夢を叶えるための”お願いのしかた”とは~
今回は、一本の動画がきっかけで、ツバルに絵本を届けることができた時の話です。
”ツバルが沈む”というのは世界中から注目され、ツバルにはいろいろな国の人たちが調査や啓発活動に訪れていました。
ツバルの学校にも「授業の時間をもらってお話をしたい」という人たちが次々にやって来ます。
だからツバルの人たちはそういうのに慣れっこになってしまっていました。
「またか」
せっかく世界中から送られてきた地球温暖化や気候変動の資料も、政府庁舎の廊下や校長先生の部屋に山積みです。
授業中に子供たちに話したり、地域の人たちを集めてワークショップを開いても、その時は「なるほど」と言ってもらえます。
でも多分家に帰ったら普通の生活に戻り、ゴミも出すし海の環境に良くない行動も繰り返すことになるんじゃないか?
なので、
頭脳で理解してもらうのではなく、心で感じてもらえたらなあ。
とずっと考えていました。
絵本を作る?
その悩みを、プロジェクトの技術者として訪れていた専門家に相談したところ、
「絵本を作るのはどうだろう」
という話になりました。
物語はその技術者の方が書いてくださるというのです。
絵は?
じゃあ、私しかいないか。描いたことないけど。
というわけで、へたくそなのも気にせず、サンプルを作って企画書を出しました。
が、却下。
絵本の企画は通りませんでした。
ツバルは本屋さんもないし、印刷屋さんもないので、ツバル語の絵本ができたら素敵だなと思っていたのですが、どうにもならずにとうとう私の帰国の日を迎えてしまいました。
しつこく奮闘
せっかくここまでやったんだから、なんとかしてツバルの首都フナフチの全世帯にこの絵本を配りたい。
それには、日本でツバル語の本を1,000冊印刷をして、ツバルに送って、現地の人にお願いして全世帯に渡してもらう必要があります。
ツバルの研究者の方や、ツバルに遊びに来てくれた方などに呼び掛けて、沢山の温かいご寄付をいただきましたが、まだまだ全然足りません。
というわけで、帰国後もいろんな人にツバルや環境のことに興味を持っている団体を紹介してもらい、仕事が終わってからこの話をして歩いて、寄付を募ることにしました。
でも、全然反応が良くないのです。
「絵本を配るより、ごみ拾いしたら?」とか、「本当にツバルに届くの?」などいろいろ言われ、寄付はもちろんもらえません。
アマンダ・パーマーさんの講演
こんなことが続き、もうダメかなと自信を無くしていた時のことです。
ご存じの方も多いと思いますが、「TED」という国際的な講演の配信があります。
様々なジャンルの人が、自分の伝えたいことを話してくれるものです。
この配信を楽しみにしていた私は、アマンダ・パーマーというミュージシャンの「”お願い”するということ」という動画に出会いました。
今はSNSが発達し、個人が世界中の人たちに自分を発信できるのが当たり前ですが、少し前まではそんなことはありませんでした。
このアマンダさんも、
「レコード会社が認めない歌は世の中に出ていけない」
ことに疑問を感じ、
「聴いてくれる人に直接届けたい」
と強く想っていました。
まだクラウドファンディングがそれほど普及していなかった当時、彼女はそれを使って自分の活動資金120万ドル(日本円で約1億5千6百万円)を世界中から集めたのです。
どうやってお願いしたか
というのが、この講演の内容でした。
”お願いする”は”信じる”こと
この動画を観て、そもそも、私の「寄付をいただく」という考え方に、間違いがあったことに気づきました。
自分には人にお願いすることが恥ずかしかったり、お金をもらうことに引け目を感じていたりする気持ちがありました。
私が叶えたい夢に賛同してもらい、お金をもらう
だから申し訳ない
と思っていたのです。
「そんな人には誰も協力しないよねー」
と思い直しました。
寄付をいただくというのは、
私にはできないけれど、その人ができる、その人しかできない役割をお願いし、引き受けてもらう
というようなものなんだと認識を新たにし、スピーチの内容を全面的に書き換えました。
「私と同じ気持ちを持ってくれたなら、一緒に夢を叶えて欲しい!」
というような意気込みで、相手を信じて話をしました。
話し終えると、「よくわかった!」「すごく伝わった!」「私は紙を扱っている商売なので、紙を提供する!」
と、皆さんが私のところに集まってくれました。
皆さんの顔が生き生きと輝いていました。
私を介して、聴いてくれた皆さんが、会ったこともないツバルの一人一人の住民と、つながったことを感じました。
そのたった1回だけで、ツバルへのハードカバーの絵本を1,000冊印刷し、船で運べるだけのお金を集めることができました。
それだけでなく、日本語の簡易版も、3,000冊作ることができたのです。
すると、在日本ツバル領事館が、英語版を作ってくれることになりました。
びっくりでした。
私の気持ちが変わっただけで、聴いてくれる人の行動がこんなに変わる。
”お願いする”ということは、相手を信じて飛び込むこと。
何か面白いことがしたいと思っている人はいっぱいいて、誰かがそれを始めたら、自分も仲間に加わりたいと思っている。
それを強く感じました。
この動画のおかげで、「私の夢」は「沢山の日本の人達の夢」に変わり、その沢山の人たちの想いを、ツバルに届けることができたのです。