ちいさな子供は常に母親がほめてくれるルールを探しているようなところがあります。



お手伝いして褒められたら、また率先してお手伝いしようと試みます。


でもたまたまお母さんがすっごく忙しいときは、「いいからあっちでテレビ見てなさい」と言われてしまうかもしれません。


「この前は褒めてくれたのに」と子供は混乱します。


上司はつらいよ


こんなことは、上司と部下の間でも起こりがちです。

 

いつも「会社は人間関係第一だ!」と言っている上司が、「会議費が多すぎる」などと注意すると、

「人間関係が大事だなんて言っていても、結局はコストか。出世するのは人間関係を大切にする社員より、数字をうまいこと書ける社員か」などと陰口をたたかれます。


部下は上司の言動に細心の注意を払い、「部長がエレベーターの中でこんなことを言っていた」などと情報を拡散します。


上司のちょっとした言動が独り歩きをして部下の行動に影響を与えます。



そんなつもりじゃなかったのに、どうすればいいの?と思いますよね。


壊れたトイレのドアのミステリー



ある私鉄に、新しい監査役が就任しました。


彼女が帳簿に目を通すと、なぜか長年、莫大な費用が駅のトイレのドア修理に支出されています。


なぜ?彼女は調査に乗り出します。


小さな駅ではトイレのドアにはカギがかけられていて、必要に応じて駅員がカギを貸すことになっています。



カギは一つしか用意されていませんでした。


かなり前に亡くなった社長がトイレを作ったときに、節約のためにカギは一つしか作ってはいけない、と言っていたのです。


トイレを借りた乗客が、カギを返すのを忘れて電車に乗ってしまうというのは、よく起こりがちです。


オートロックのトイレなので、カギが無いとトイレが使えません。


新しいカギは、1,000円で売っています。


でも、その昔の社長がトイレを作ったときの都合で、トイレのカギの購入の費用も本社の上のほうの許可が必要になっていて、手続きに半年もかかります。


「緊急修理」という費目なら、現場の判断で小口現金を使えます。


「トイレのドアが壊れた!」となると緊急です。


そこで駅員は、カギを返すのを忘れる乗客がでるたびに斧でドアを壊し、「緊急修理」でトイレのドアごと変えて、使えるようにしていたのです。




だから、この会社の「トイレのドアの修理」の費用が莫大になっていたわけです。


「カギを買う手続きが面倒だから、ドアを壊す」


なんか、ありがちな話かもしれません。


トイレのドアを壊さないために


トイレのドアを壊している会社、コミュニケーションを密に取っていれば解決できたかというと、そうではないですよね。


もともとの共通理解がなければ、共通言語で話はできません。


いくら密なコミュニケーションも無意味です。


「もともとの共通理解」、会社でいう「経営理念」です。


七福醸造の判断基準


ここに、はっきりした判断基準を経営理念にしている会社があります。


愛知県の七福醸造という白醤油の会社です。


経営理念を

「私たちのすべての基準は、それが世界中の子供・子孫にとって『よいことかどうか』です。」

に定め、徹底してそれだけをやっている会社です。


子供たちにとって良いかどうかだから、安全でおいしものを作る。


子供たちにとって良いかどうかだから、環境にやさしい製品じゃないと。


という具合です。


子供たちにとって良いことを社員が提案したら、すぐに採用して取り組みます。



社長は、社員が「本当に子どもたちにとって良いこと」をしたときに感動する仕組み、嬉しいと思える仕組みを作ることを常に考えていろんな取り組みをしています。


だから社員にはブレがないし、いつも自信をもって行動しているようです。


上司が判断基準になると、上司の言動次第で社内が混乱したり、不満を言いたくなります。


でも会社の判断基準が「子供たちにとって良いこと」なので、たまに上司が別のことを言っても「今日は調子が悪いのかな?」ぐらいで気に留めなくても大丈夫。


判断基準がしっかりしていれば、カギを買わないでトイレのドアを壊すことは無いでしょう。


となると、上司というのは、自分が尊敬される素晴らしい人間になるんじゃなくて、粛々と会社の経営理念を部下に伝え続けること、自分もそれに沿って行動することが大事なのかもしれません。