モラルハザードとは 人の行動は読めません
「政府のコロナ対策はモラルハザードにつながる」
という声があちこちから聞かれます。
手厚い支援をすると、それが当たり前になって、企業が努力しなくなる
という意味で「モラルハザード」という言葉が使われているようです。
モラルハザードとは
人の行動は読めません。
「留学したい」という息子の夢をかなえるために、500円貯金をしてコツコツ苦労してお金を渡したら、一瞬で飲み代に代わってしまったとか、
医療保険に加入したお客さんが、「病気しても安心」と、健康に気を付けなくなって入院ばかりするようになったとか、
「こうしたらこうなるだろう」
と期待してこちらが行動しても、思ったのと違う行動をされて、期待した効果が得られないことがあります。
これが、モラルハザードです。
政府のコロナ支援、困っている企業を救済しようとしたものなのに、企業が期待していたのとは違う行動をとると
救済すべき企業を救済できず、もともとコロナがなくても倒産しそうだったところが、支援策のおかげで生き延びてしまった
というように、政府の思惑通りにはことが進まない、というわけです。
モラルハザードが起きる原因
モラルハザードは、Aさんが、「Bさんはこうしたら、こう来るだろうな」と想定していたものと、
Bさんが「Aさんがそう来たら、私はこう出る」と想定しているものに違いがあって、それに気が付かなかったときに起こるといわれます。
例えば、自分が保険会社で仕事をしているとして、
お客様が健康に問題がなく、病気になる確率は低いと思っています。
一方、お客側は、保険に入ったら病気になっても保険が下りるので、安心だと思っています。
お互いにそのことを確認しないまま契約を交わしてしまうので、契約後にお客様がとった行動は、保険会社の人が考えていたのとは違ったものだった、
ということになります。
さらに、モラルハザードは相手の行動を自分が監視できないことで起こるといわれます。
保険の契約を交わしても、保険会社の人がお客様の行動をわざわざ監視することはできません。
保険をどう考えて、どう使おうと、すでにお客様の自由なのです。
こういうことは、経営者と労働者の間にも起こります。
チラシ配りのバイトの人が、チラシを配らずにカフェでくつろいでいたり、リモートワークしていると思ったら、外出していたり。
生産性が上がりません。
モラルハザードを防止するには
- 自分が期待したように相手が動いたときに、相手にいいことがある
- もしそうじゃない行動を起こしたときに相手が損をする
という状態が作れたらモラルハザードの防止になります。
そもそも、監視できる状態にすることも一案です。
例えば、チラシ配りのアルバイト契約を時間給ではなく、出来高制にするとか、不定期に見回ってねぎらうとか。
保険の場合も、医療費の一部を負担しなければいけない商品にしたり、
留学のお金は、貸してあげて、卒業出来たら返さなくてもいいことにする
などが、考えられます。
モラルハザードは道徳観とは関係ありません
このモラルハザードという言葉、日本語に直訳すると「道徳の危機」となります。
それで、「道徳観が欠如した人が起こす行動をいうのかな?」と思う人もいるようですが、道徳観を問い沙汰す話ではありません。
もともと、経済学の世界では、「自由に取引すれば、世の中はベストな状態になる」という大前提があります。
でも実際はそうならないことがあって、それを「市場の失敗」といって注意喚起しています。
その中の一つが「モラルハザード」なのです。
自由に取引すれば、世の中はベストの状態になるよ。ただし、相手が、自分の想定していた行動を起こさないことがあるので、そういう時は、ベストな状態になりませんから注意してくださいね。
ということです。
そうは言っても、保険会社の例でも、チラシ配りの例でも、こちらからしたら「裏をかかれた!!」という気持ちになるし、心情的に「道徳観」に結びついてしまいます。
今、ふと思ったんですが、小さいころ、
「誰も見ていないと思っていても、神様はちゃんと見ているんだ」
と言われて育った人は、モラルハザードを起こさないんじゃないでしょうか?
「おてんとうさまが見ている」とか、「神様はお見通し」という言葉で、モラルハザードは防げていたのかもしれません。