美郷町の松田町長のお話で繰り返し出てきた言葉は

「産業振興」ではなく

「少子高齢化対策」でもなく

「町民の幸せ」でした。



美郷町長が生まれるまで


松田町長は、大学を卒業後、秋田県庁に就職。


それから10年間、県の行政に取り組んでいました。


その間も、「もっと住民に近いところで仕事をしたい」という気持ちがどんどん強くなり、33歳の時に県庁を退職します。


そして、地元、仙南村の助役に就任。


自分の仕事が直接住んでいる人たちの幸せにつながる村の仕事は、まさに天職。


4年後には村長選挙に出馬し、36歳で仙南村の村長に。



それから4年2か月で仙南村と、千畑村、六郷町が合併した美郷町の町長となったのです。

41歳の時でした。


「人は故郷を選ぶことはできないじゃないですか。だから美郷町で生まれた人には、『ここが故郷で良かったな。』と思ってもらうのが、私の仕事だと思うんですよ。」

と言います。


すべての仕事は、町民の幸せに行き着くためのもの。


美郷町の取り組み


その町民の幸せのための沢山の仕事の一つが、民間企業との連携。


「ゴホン!といえば、龍角散」の龍角散は、この地域で生まれました。


秋田佐竹藩に代々伝わる薬として重宝されていた龍角散のルーツをさぐった松田町長は、2013年に「生薬の町 美郷」構想を打ち立てて、龍角散との連携協定を結びます。


地元特産品の落とし穴


ところで、全国にあふれる「地元特産品」


正直、どれもおいしいし、優劣のつけようがありません。


高い開発費をかけて苦労して作っても、爆発的にヒットするわけではないのです。


「地元特産品」がうまくいかない大きな理由は、2つ。


一つは、「地元のものを使わなければならない」という「ものありき」の思考です。


「買ってくれるお客さんが欲しいものを作る」のではなく、「あるものを使って魅力あるものを作る」



これでは、地元の産品で魅力あるものを作るという目的は達せられますが、お客さんが欲しものを作っているわけではありません。


もう一つは、「地元で丹精込めて育てたものは、特別においしいから、それで作った商品は売れる」という幻想。



日本中のどこでも、地元で丹精込めて育てたものがありますから、それだけでは競争力はありません。


実際は、大手のメーカーのものの方が、安くておいしかったりするのです。


龍角散


そんな中、美郷町では株式会社「龍角散」という売り先もしっかり確保して、ハーブの栽培を始めます。


「龍角散の商品に使われる薬用植物をつくる」というはっきりした目標をもって栽培に取り組むことができたのです。



生薬の原料には普通の野菜よりも厳しい基準があり、売れなければ苦労が水の泡になります。


でも、売り先がはっきりと見えることで、生産者も苦労を惜しまずに生産に集中することができます。


美郷町は東京生薬協会とも連携を結び、龍角散以外の生薬メーカーにも、出荷できる体制を整えています。


「生薬の町 美郷町構想」は、生産する農家の方の幸せを目ざした取り組みだったのです。


モンベル


2020年8月、県内初のモンベル直営店が、美郷町にオープンしました。


人口1万9千人弱の町に、255坪の広くて明るいお店が登場したのです。


「美郷町っていえば、全国名水百選にも選ばれている清水の里でしょう?」


というイメージが定着したこの町の観光客は、

町の遺跡や歴史ある街並みなどを散策しておいしいものを食べて帰る。


というのが一般的で、年齢層も滞在時間も限られます。



ここに、新しい人の流れを追加するには、歴史や文化以外の町の資源を、観光資源として打ち出す必要があります。


そこで考えられたのが、美郷町の自然をアウトドア市場に売り出すこと。


その起爆剤が、モンベルの直営店だったのです。


モンベルとの連携は、単にお店でのアウトドア用品の販売だけではありません。


美郷町の山や野原を、アウトドアを楽しみたい人たちが集まる場所にするために、モンベルのアドバイスがもらえるのです。


「大自然の中に観光施設を作ったのはいいけど、今はサルしかいない」という場所が日本中にあります。


これも、「ここをどうするか」という「ものありき」の考えで一時的なブームに乗ってしまった悲劇と考えられます。


アウトドアが好きなお客さんを長年相手にしているモンベルを味方につけたことで、お客様志向の開発や情報発信ができるわけです。



  • 自然を守りながら観光客も呼べる。
  • 住民がアウトドア活動で健康になる。
  • おまけにモンベルから固定資産税や法人税ももらえる。

など、いいこといっぱいです。


市町村と民間企業の連携は、2016年ごろから全国で盛んになりました。


今では単にボランティア活動的な交流だけでなく、企業が本格的に行政に深くかかわり、事業として地域課題を解決しはじめた例も出ています。


美郷町とJALとの連携では、「地方創生」という明確な目的をもって、温泉施設や道の駅のメニューをJAL機内食のシェフが監修したり、「美郷町満喫ツアー」を企画したりしています。




外からプロの知恵やブランド力をお借りして、町民の幸せにつなげているのです。


地域応援券


美郷町を初めて訪問した時、行きたかったお店が満席で、第二候補も満席、お店を探しているうちに、ランチを食べ損ねてしまいました。


商工会でその話をしたら「それは地域応援券のせいですね」と言われました。


地域応援券?


美郷町では、コロナで大変な地元のお店を応援しようと、美郷町に住民票がある人全員に9,000円分の券が届けられたそうです。


内訳は、商品・飲食券6,000円分、飲食券3,000円分。


よくあるのは、1万円分の券を買うと13,000円分使えるなど、お得な上乗せがあるプレミアム商品券。


町長は、「プレミアム商品券の形にすると、一度に大きな出費があるので、買える人と買えない人が出てきます。だから町民全員に配ることにしたんです。」と言います。


確かに、今までと違い、今回は住民もコロナで困窮していますから、お店を営んでいる人達だけでなく、お店に行くお客さんのほうにも支援が必要です。


応援券にすることで、コロナ禍での住民の生活も支え、地域経済も活性化できたということです。



「秋田県で初の~」という枕詞がついてくる美郷町の取り組みは、一見派手なパフォ-マンスに見られることも多いといいます。


でも、どの事業も、町民の幸せのために一つ一つ地道に考えられた取り組みだったのです。


地域応援券は、金額、内訳などをすこし変更して、2021年5月にも行われる予定。


こうして美郷町民の幸せの上乗せが、続いています。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。



美郷町の松田町長のお話には、スマートな中に信念を貫く情熱がガツンと伝わります。

町に対する愛情に自信があるから、信念を伝える言葉を持っているんだろうなと思います。

ありがとうございました!