ヤマダフーズから学ぶ経営術(3) 企業が生き続ける組織力を育む
企業にも、おぎゃーと産声を上げてから、人間と同じようなライフサイクルがあります。
企業が人間と違うのは、「企業は将来にわたって活動を継続し続けるもの」という「ゴーイングコンサーン」が前提ということ。
そうなんです!実は、企業は死んではいけないことになっているのです。
企業のライフサイクルとは
そこに同じ方向に向かって進む仲間が集まり、リーダーシップのある人を中心に、「共同体」の段階となります。
その後、大きな組織となって、規則や制度が整備される「公式化」という段階に移ります。
でも、ここで一つ落とし穴が!
効率や安定ばかり気にしていると、ガチガチなルールに縛られて、一人一人が身動きできなくなってしまうことに!
そうなると、大きく変化するこの世の中を渡っていくのは難しくなります。
人が幸せになる価値を提供し続ける「ゴーイングコンサーン」が前提となるはずなのに、存続が難しくなるのです。
だから、組織が大きくなっても、一人一人の意見が活かされて、柔軟性を保っていく「精巧化段階」というものが必要となります。
一人の創造的な能力で出来上がった企業。
そこに、同じ方向に向かって進む仲間が集まり、
大きな組織となって制度ができていく。
そして、その組織の中で人が育ち、
役割を持った小さな集団の塊となって
変化に対応しながら生き続けるのが企業です。
企業が生き続けるカギをVRIO分析
その企業が成長し続けるためのカギとなるものを表す方法として、VRIO分析というものがあります。
チャンスに生かせてリスクに打ち勝つ資源を持っているか
めったにない資源をもっているか
I(Inimitability):模倣困難性
企業の歴史の中で培われてきたものなど、ほかの会社が手に入れようとしても、真似できない資源を持っているか
会社が持っている資源・能力の可能性を十分に引き出して活用できる組織になっているか
このVRIOの中でも特に、IとOは、最強です。
ヤマダフーズ、3代目社長伸祐氏は、創業時代からの数々のチャレンジの物語など、ほかの企業がまねできないこの会社の資源を、組織力にしていくことが、自身の役目だと言います。
ヤマダフーズ 3代目伸祐社長ができるまで
思春期の頃、伸祐氏は、敷かれたレールを走ることに反発し、宇宙飛行士を夢見る少年だったそうです。
いよいよ大学進学という岐路を迎え、「東大の理Ⅰに合格したら、思い通りにさせてもらいたい」と父に宣言、それを励みに猛勉強。
でも惜しくも夢破れ、親との約束通り経営者を目指すために商学部へ。
その時もまだ、経営の道に対してそれほど熱い思いは持っていなかったようです。
ゆる~い大学生活を送っていたその時期は、ちょうど父親が茨城工場の立ち上げに奔走していた時期と重なります。
関東圏への進出をかけた大プロジェクトはなかなか思い通りに進まず、お父さんは大きな危機に直面していました。
そんな時、伸祐青年は初めて父親の涙を見たそうです。
必死に頑張っているお父さんを見て、はっと自分を振り返り、やっと自分から本気で経営を志すようになりました。
大学卒業後はアメリカでMBAを取得、大手食品会社で数年勤務したのちに29歳でヤマダフーズに入社、平成25年に36歳で社長に就任しました。
伸祐社長、組織力への取り組み
女性が多く勤めるヤマダフーズですが、伸祐社長は、まだまだ若い女性に頑張ってもらえる環境が整っていないと考えています。
結婚や子育てで、女性社員がやめてしまうのが普通だった創業当時のしがらみが、まだ会社に残っていると感じているのです。
でも、応募してくる女性は、自分の将来をしっかりと見据える優秀な人が多い、そんな社員に、もっと活躍してもらい、会社を引っ張っていってほしい。
そう考えて、女性リーダーシップ研修にも積極的に社員を送り出しています。
研修から戻った社員からは、働きやすくしていくための提案が届けられ、一つ一つ形にしているそうです。
社長の心のメッセージは社員にしっかり伝わっているようで、現在出産・育児後の復帰率は100%。
そんな雰囲気が広がり、男性の育児休暇の取得もあたりまえになっています。
また、部署をまたいだメンター制度を導入し、悩みを相談しやすい環境を整えると同時に、後輩社員を育てていく先輩社員の成長も実現しました。
工場では、ヤマダ安心部会という取り組みが。
ヤマダフーズの3つの工場の中から毎年一つモデル工場を決め、3つの工場からスタッフがそこに集結して工場内の査察して、問題点を指摘します。
その改善案を自分たちで考えていくのです。
そのほか、学校、企業への訪問やマスコミを通じて、社員が納豆の栄養やおいしさを伝える活動をしています。
こうした取り組みは、社員の自主性を育てると同時に、ヤマダフーズの、ほかの企業にはまねできない組織の文化を引き継いでいくことに加えて、社員が作る新しい文化も育んでいます。