2021年2月19日、 経済産業省から、「約束手形 2026年めどに利用廃止」というニュースが流れました。 


「えっ!約束手形ってまだ使われてるの?」と思った人も、いますよね。


実は今もまだ、25兆円分の約束手形が日本国内でやりとりされています。


今回は、そもそも、約束手形がどういうもので、どうして無くなることになったのかを解説します。


約束手形とは


約束手形は「商品を買った代金を、期日までに支払うことを約束した証明書」です。



上の手形は、「株式会社あいうえお」が、「ABC機械」に、「機械の代金は、2021年7月1日以降に〇〇銀行✖✖支店で受け取ってください」と約束したものです。




材料を仕入れて製品を作っても、売れてお金が入るまでには時間がかかります。


約束手形は、その材料を仕入れた時の支払を少し待ってもらうために作られたしくみ。


受け取った人は、お金のように、その手形を自分の支払いに使うこともできます。



約束手形の歴史


日本では、江戸時代に大阪を中心に商業がとても盛んでした。


沢山のお金が飛び交うと、ニセがねをつかまされることもありますよね。


それを防止するために、両替商(今の銀行)が、信用できる商人などから銀貨・金貨を預かって、「確かに銀貨・金貨を〇〇円分預かってます」という「銀目手形」というものを商人に渡していました。


お金を遠くまで持っていくのは重いし、ニセがね疑惑も浮上します。


それよりだったら、この「手形」のほうが信用できるし便利。


ということで、大阪では「お金」ではなく、「手形」のやり取りで商売が成り立っていて、そのおかげで大阪の経済が発展したともいえます。


でも、だんだん預かった金貨・銀貨よりもはるかに大量の手形が両替商から発行されるようになりました。


そうして日本は明治維新に突入。


日本の経済を新しく立て直さなければいけないときに、政府はこの「手形」がちゃんと実態に合っているかを確認しようとしますが、そのニュースで大阪は大パニック。


預けた銀貨・金貨を取り戻そうとする商人が両替商に殺到します。


「銀目手形」は消滅の危機に陥り、大阪経済も破綻寸前。


こんな状態を救おうとしたのが、朝ドラ「朝が来た」でディーン・フジオカが演じた五代友厚。


大阪商工会議所を作った五代は、手形の仕組みを救おうと、手形の法律を整備しようとします。


同じころ、東京では、欧米の銀行制度を日本に導入しようとしている渋沢栄一が。


渋沢栄一は、日本の慣習に合った銀行の制度や法律を整備しようとします。


五代友厚と、渋沢栄一の英知と努力で、現在の約束手形ができたのです。



さて、日本の経済に大きな役割を果たしてきた約束手形ですが、時代が変わるにつれて、日本の企業の状況にも変化が起こってきます。


上の図のように、不足していた会社の資金は、1993年ごろから余り始めます。

  • 景気が良くなって、会社の利益が増えてきた。
  • 株式会社が作れるようになって、お金がいろんなところから調達できるようになった。

など、もう支払いを待ってもらう状況ではないわけです。

そしてすでに、現金を大量に持って歩かなくても商売できる世の中になっています。

五代さん、渋沢さん、ありがとう!もう日本は大丈夫です!

企業の資金繰りを圧迫する約束手形


それなのに、この約束手形の制度は、ずるずると続けられているのです。

そうなると、困るのは支払いを待ってる受け取り側です。


せっかく製品を買ってもらっても、お金を受け取れるのはずっと先。

統計によると、約束手形の支払期日は、100日以上先のものがほとんど。

会社によっては、「うち、月末払いだから」と、3月14日に購入した製品の支払い手続きを3月31日に行うところもあります。

支払ってくれるのかと思いきや、3月31日に約束手形発行。

その支払期限が100日先、ということは、3月14日に売れた製品のお金が入るのが、7月中旬!!ということになります。

手数料が高い約束手形


この間、製品もないしお金もない。

そして、お金を受け取るときは、「代金取り立て手数料」を銀行に支払う必要があります。

もし銀行に、「すみません、支払期日前にお金が必要なんですけど。」と前払いを要求すると、

「じゃあ、割引料があるので100万円の手形だと、97万円のお支払いになります。」などと、まるで借金でもしているかのように利子分が差し引かれます。

待たせている支払側の企業は?と言えば、

「手形用紙発行手数料」を銀行に支払いますが、これは、代金取立て手数料と比べると、とても安いのです。


そして、待たせる側の企業は、資本金10億円以上の大企業が多いというので、驚きです。

さっさと払えー!!と思いますよね。

こんなこともあり、実に92.6%の受け取り側の企業が、「約束手形なんてやめたい」と言っています。

めんどくさい約束手形


そして実は、支払い側の76.9%の企業も、「約束手形やめたい」と言っているらしいのです。

そのわけは、「めんどくさいから」

このインターネットバンキングの時代に、手形を作って、収入印紙を貼って、ハンコ押して、封筒用意して、切手貼って郵送する。

いつまでこんなことやるの?と思いながら作業しているようです。



それでも続けているのは、
  • ずっとこうしてきたから
  • 新しいこと始めるのもめんどくさいから
  • 手数料が安いから
というような理由。

欧米では約束手形の制度はすでに無くなっていて、クレジットカードや銀行振り込みが主流。

こんなに支払期日までが長い国は、世界中見ても、日本だけらしいです。

渋沢栄一も、草葉の陰で泣いてるかも。



まとめ


このように
  • 売ってから現金が入るまでの期間の長さが、企業の資金繰りを圧迫している
  • 収入印紙や手数料などのコストが発生している。
  • 扱いが面倒な紙の使用が、電子化の壁になっている。
というのが、約束手形廃止の理由になります。

今回の「約束手形廃止」、せっかくやっても、約束手形という紙が廃止されるだけで、支払期限の問題や、手数料やコストの問題が解決されなかったら、あまり意味がありません。

今回の「約束手形の廃止」で、日本の企業の問題が解決されるのか?!

注目したいところです。