ヤマダフーズから学ぶ経営術(2) 伝統を守るために攻める
小さいころには生活の中に普通にあったのに、いつの間にか、なかなかお目にかからなくなったものってありますよね。
ふとした時に巡り合って「あー、これ懐かしい!」みたいな。
その一方で、昔からあるのに、今でも普通に私たちの生活に存在しているものもあります。
どこが違うのか、と考えると、たぶん作る人が考えている「製品の価値」
製品の価値とは
製品が持つ価値を、
「もの」を起点に考えると、今まで作ってきた方法は変えられません。
昔からの材料や方法などをそのまま引き継いでいくと、多くは作れず、高価なものになってしまったりします。
たまに、こういうものを手に入れると、ちょっと嬉しくなります。
一方、「人」を起点にするとどうでしょう?
製品そのものというよりも、「そのモノが人に与える価値は何か」を考える必要があります。
T・レビットという経済学者が言うには、 「ドリルを買う人が欲しいのは『穴』である」
ドリルを買う人は、ドリルが欲しいんじゃなくて、「穴」が欲しくてドリルを買っている? 確かに!!
ドリルコレクターならまだしも、普通の人は、自分が穴をあけたい材料に、簡単に瞬時に穴が出来ることを願って、ドリルを買っていくのです。
そこで、「納豆が人に与える価値」ってなんだろう、と考えると
- 赤ちゃんからお年寄りまで、みんなが食べられる、
- 近所で買えて、しかも安いから、毎朝家族で食べられる
- 特に料理しなくても、さっと食べられる
- 栄養満点 優秀なたんぱく源
- 独特な粘りと食感で、ご飯の親友
というようなことが、昔から納豆が人に与えてきた価値といえそうです。
「人に与えてきた価値を守ろう」と考えると、単に昔からの製法を守るだけ、というわけにはいかなくなります。
人や世の中は、どんどん変わっていくので、その時生きている人たちに、昔と同じだけの価値を提供するには、モノは常に革新し続けることが必要となります。
「伝統」と「革新」は、真逆のような言葉ですが、伝統を守るには、実は革新が必要だったのです。
「いつものおいしさ」を守るための攻め
「機械化する」というと、「手作りの良さがなくなる」ように思えます。
それを乗り越えるのは、「革新的な技術と情熱」
ヤマダフーズでは「自然の恵みを科学する」という言葉をスローガンとして掲げています。
納豆は、「大豆」、「水」、「納豆菌」の3つが、温度と時間によって生み出される自然の恵み。
その恵みの調和を担っていた「職人の経験と勘」という暗黙の領域を、科学的に「見える化」しようというわけです。
この革新の流れの中で、「日本一おいしい納豆をつくる」というヤマダフーズ全スタッフによるプロジェクトが立ち上がりました。
全国から評判の納豆を集めて、その「旨味」「粘りの強さ」「匂い」「見た目」「固さ」を確かめ、「これが最高!」という納豆の基準をみんなで作りました。
そして、その最高の納豆を実現するための大実験が始まります。
あーでもない、こーでもないと、白神山地まで納豆菌を探しに行ったり、豆を水に浸す、豆を蒸す、熟成するという全部の工程の温度や時間を少しずつ変えてみたり、数えきれない試行錯誤を重ね、数年かけて、ようやく理想の納豆をつくる方法にたどり着きました。
そうしてできた納豆は、納豆の日本一を決める全国納豆鑑評会で、約190点の納豆の中から、みごと最優秀賞受賞!
こうした経験や技術の積み重ねで、おいしさを未来につなげています。
「どこでも気軽に」を守るための攻め
さて一方、関東圏に広がったヤマダフーズの市場にも、納豆の価値のすべてを提供しなければなりません。
最初は長距離トラックで運んでいたのですが、秋田から東京まで12時間、出来立ての納豆を毎日届けるのは大変でした。
そこで、1996年に茨城にテニスコート47面分の広さの工場を作ります。
水戸納豆で有名な茨城県は、納豆業界のシリコンバレー。
大きな市場を持つ首都圏にも近いし、納豆に親しんでいる人たちを採用できる、など、いろいろメリットはありそうです。
納豆が提供する価値を、変わらずに伝えるのを可能にするための方法を確立し、設備とシステムを整え、スタッフを育成し、流通網を整備することで、「どこでも手軽に食べられる納豆」を実現しました。
いろんな伝統食が手に入らなくなる中、「納豆は苦手」という人が結構いるにもかかわらず、日本中、どこのスーパーにも、必ず毎日、納豆が並んでいるのには、納豆という「モノの伝統」ではなく、納豆が提供する「価値の伝統」を守り続けるメーカー側の努力があるのです。