斉藤光学製作所から学ぶ経営術(3) 会社の道しるべ 経営理念
大河ドラマ「麒麟がくる」も大詰めですが、本能寺の変の前には、信長の滅亡が予感できる言葉が周りの人たちから囁かれています。
「近頃の信長様は、何を考えているのかわからない」
この言葉は、周りの人はもちろん、家来でさえも、信長軍がどこに向かっているのか、わからない状態を表しています。この不信感は、信長を孤立させていきます。
これと同じように、どこに向かっているかわからない企業は、取引している企業からの共感も生まれません。
会社の社員さえ、いくら社長から「ついてこい」と言われても、不安しか生まれません。
会社を取り巻く人たちに、会社の未来像、会社の生き方をはっきりと示すためにあるのが、「経営理念」です。
経営理念とは
経営理念は、この会社は何のために存在するのか、を表しているものです。
一般的に、どんな会社も「世の中を幸福にする」ために存在していますが、自分たちの会社は、どのようにして世の中を幸福にするのか、何が自分たちの使命なのか、を明確にしたものが、経営理念と言えます。
その意味で、経営理念は会社の行動を制限しているとも言えます。
「うまい、安い、早い、」と言っている牛丼屋が、ゆったりくつろげる高級店を作ることはないし、「すべての子供に品質の良い子供服を」と言っている子供服メーカーが、お金持ちしか手が届かない子供服を作ったら、お客さんは離れていきます。
この経営理念をもとに、経営計画などが作られ、会社の日々があります。
斉藤光学製作所の経営理念
斉藤光学製作所では、齊藤社長が父親から会社を引き継いだ時には「経営理念」というものはなかったそうです。
社長就任にあたって作った「経営理念」が、次のものです。
心豊かな製品
最初に書かれているこの言葉。
これは、製品は製品でも、「質の高い人が作り上げた製品」という意味です。
この会社が、人間の本質を豊かにする人材育成に力を入れているのは、ここからきています。
心豊かな製品を作ることでお客様の信頼を得る。というのが、この会社の価値になります。
静かな企業成長
急激に成長する企業を目指す会社もありますが、斉藤光学製作所は、静かに、確実に成長していくことを目指しています。
企業も、「法人」として人と同じように人格があったら、穏やかで信頼できる人格が、ここに表れている気がします。
物心両面の幸せを目指す
最後にこの言葉で締めくくられています。
「物」による幸せというのは、会社の本業での成功、「心」というのは、従業員の満足を表しています。会社が成功するだけでは意味がない、従業員が心から幸せを感じられる会社になってこそ、会社の幸せなのだと。
心が豊かな人たちによって作られる製品だけをお客様に届け、一歩一歩成長していく、満足感にあふれた会社を目指していることが、伝わります。
経営理念の伝え方
この経営理念、壁に大きく掲げられている会社は珍しくありません。
朝礼などで、みんなで唱和するところもあります。
壁に掲げられていても、毎朝唱和しても、社員が意味をちゃんと理解して行動に反映されているかは、また別の話です。
斉藤光学製作所はどうかというと、壁に掲げられているのはもちろん、社長は社員とお昼ご飯を食べながら、この経営理念の話をする「ランチミーティング」を開いているそうです。
全員でこの経営理念を実現させたいと願っている社長は、社員全員の心を一つにするために、対話をしているのです。
経営者の仕事とは
会社は、人間よりも、ずっと長生きです。
その長い間、世の中の動きに対応して、波に乗ったり、波をかわしたりしています。
でも単に受け身で波に反応しているだけではどこにも進めません。
どんな波が来ても、自分から進むべき方向を目指して航海を続けていくのが企業です。
そのために、経営者の役割は、次の3つだと言われています。
- 未来に焦点を合わせた組織づくり(未来志向)
- 世の中の変化に対応して変わっていける組織づくり(外部志向)
- 高い利益を生み出す事業を作り出す組織づくり(構造志向)
この3つは、経営者でなければできない役割です。この3つに集中するためにも、ほかのことは社員に任せられたら理想的。
その時に、経営理念がしっかりと浸透されていれば、社員は自分で考えて行動することができます。
会社の方向性を社員がわかっていれば、そうそう大きく道をはずれることはありません。
経営理念は、社外に明確に示すことで、自分たちの行動もいましめることができ、外からの共感も生み出します。
内側にしっかりと浸透させてることで、社員全員で、目指す未来像を実現していく会社になります。