ドラッカーというと、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、通称「もしドラ」という本が話題になったことがあるのを思い出す人も多いのではないでしょうか?
野球部の女子マネが、ドラッカーという経営の父が書いた書物をもとに、弱小野球部を甲子園に導くお話でした。

今回は、このドラッカーが65年も前にワークライフバランスを教えてくれてた!というお話です。

ドラッカーが教えてくれる組織と人の境界線

組織には人がいて、経営者は経営者なりに、従業員は従業員なりに、組織への期待や組織からの圧力に悩まされます。組織でみんながうまくやっていくためには、組織と人のかかわり方を理解するのが大事です。

ドラッカーは、世の中に「マネジメント」という概念を送り出した人で、自分では、「人間によって作られた人間環境をどう生きるかを研究する『社会生態学者』だ」と言っています。

人はすごい

彼によると、会社は、お金や情報や、そのほかいろいろな資源を持っていますが、その中で成長と発展をしてくれるのは『人』だけ。
「人」の能力は無限大で、そこにある「1」を「10」にも「100」にもできる。だから企業は、その能力を使って、世の中の「1の価値」を「10の価値」や「100の価値」に成長させて世界に貢献するのがシゴト!だと言っています。



人はめんどくさい

でも一方で、人は、もちろん働くだけの存在ではなく、家族がいたり、友達がいたり、趣味があったり、病気になったり、夢があったりする存在だということを忘れてはダメで、組織はそこに踏み込むべきでもないし、踏み込んでくれると期待させることもNGだとも言っています。

つまり、働いているのはその人たちの意志だし、経営者は「俺はこの人たちを養っている」とか「会社に忠誠を尽くしてもらいたい」とか、「この人たちの生活に責任がある」とか、思うのは組織と人の境界線を越えてしまう行為で、NGというわけです。

いったんまとめ

要するに、人だけが、想像したり、判断したり、組み合わせたりする能力がある。企業は、その能力を使って、世の中に転がっている材料を、歩きやすい靴や面白いゲームに変えることができるし、世の中にそれを期待されています。

でも、企業は、その人の企業が必要なところだけを切り取って持ってくることはできず、「まるっと」ひとりの人格と意思を持った人間を雇わなければなりません。

人は、仕事したり、やめたり、頑張ったり、さぼったり、全部その人の意志で決めることができて、組織が何か強制することは絶対にできない。それを強制して、従ったらご褒美をやるっていうのも、もってのほか。ということになります。

人にシゴトをしてもらう方法

じゃあどうするの?って話ですが、「割り切る」ということになります。

人によって能力に差がある、意欲も違う、コロコロ気が変わる、自分の生活も大切、というのが従業員だ、という前提で、彼らが自分の意志で「いい靴をたくさん作ろう」と思えるしくみを作ることが大事、ということになります。

従業員に与える4つのもの

そこでドラッカーが働く人に与えるものとして挙げているのが、次の4つです。

期待

それぞれの立場の従業員に、その人の能力が最高に生かせる仕事をしてもらい、それを立派にやってくれることを期待します。


責任

責任を持ちたくない人も、責任を持ちたい人もいるでしょうが、そんなことはお構いなく、働く人たちに対しては必ず仕事に対して責任をもって取り組んでもらうべきだと、ドラッカーは言っています。



そして、上司に対する報告とか手続きは、仕事を早く進めるためのもので、ルールじゃない。全部を管理しようとする管理職は、何も管理しないことと同じだよ、とも。

情報

責任をもって素晴らしい仕事をやってもらうためには、自分の仕事についてあらゆる情報を持つことが大前提。たまに、従業員を管理するために、都合のいい情報しか与えないで、「いいからやれ」的なことを言ったりする上司がいますが、それだと責任をもって取り組むこともできないし、いい仕事もできない、というわけです。


称賛

優れた仕事に対しては、はっきりと関心を示して評価することが大事。その時に、称賛するのは、出来上がった仕事そのもの。「残業頑張ったね」とか、「小さいお子さんいるのによくやってくれたね」とかではないということです。あくまでも、「靴を作る」ということに対する成果に対して、「素晴らしい」という称賛をして、それなりのボーナスや昇給なりにつなげるというわけです。

上の内容は、主にドラッカーの「現代の経営」という本をもとにしていますが、この「現代の経営」が書かれたのはなんと、65年前!
それなのに「現代」と言われても全く違和感のない内容なのが、驚きです。
組織と働く人の境界線が、人の可能性を引き出して組織の力となってもらうためのものだと考えるドラッカーと、過労死防止のための「働き方改革」とは、根本的に違う感じがします。